2016 Fiscal Year Research-status Report
多様な植物二次代謝産物を輸送する多機能輸送体の生物有機化学
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16K13083
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
上田 実 東北大学, 理学研究科, 教授 (60265931)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 輸送体 / Arabidopsis thaliana / GTR1 / ジャスモン酸イソロイシン / ジベレリン / グルコシノレート |
Outline of Annual Research Achievements |
植物は多様な二次代謝産物を生産する。一方で、それらの生体内分布を制御する分泌機構に関する研究はあまり進んでおらず、多様な代謝産物の各々に特異的な輸送体が存在するとは考えにくい。我々は植物ホルモン ジャスモン酸イソロイシンの輸送体GTR1を発見し、これが植物免疫に重要な意義を持つことを示した。 GTR1はジャスモン酸イソロイシンを輸送するが、その12位酸化体やグルコシド体などの誘導体、あるいは植物ホルモンのアブシシン酸などは輸送せず、厳密な構造認識によって輸送基質を選択している。一方でGTR1は、ジャスモン酸イソロイシンと構造的に全く類似しない植物ホルモン ジベレリンやグルコシノレートも輸送する。GTR1の極めてユニークな輸送基質認識機構は、既知のいかなる輸送体とも異なる。これは、GTR1単量体、GTR1ホモ二量体、GTR1-GTR2ヘテロ二量体が、それぞれ異なる基質認識を行うためであるとする予備実験結果を得た。本研究により、前例のない多機能輸送体の輸送機構を証明することで、植物の多様な二次代謝産物の生体内分布が、同様の二量体形成型輸送体により制御される可能性を提案する。本研究では、我々が発見したGTR1の基質輸送モデルを証明する。また、基質の構造類縁体(立体異性体などを含む)からなる化合物ライブラリーを用いて、二量体形成を抑制する小分子を開発し、輸送基質選択性の人為的制御を実現する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
GTR1と同じNPFファミリーに属する硝酸輸送体は、リン酸化/脱リン酸化によって単量体/二量体間平衡が変動することで、基質親和性が変化する。我々は、GTR1にも同様の機構があると推定し、アフリカツメガエル卵母細胞異種発現系を用いて解析を行った。 BiFC(Bimolecular Fluorescence Complementation)法により、GTR1が二量体を形成することが確認できた。一方、GTR1(WT)とその脱リン酸化ミミック(T135A)、リン酸化ミミック(T135D)を用いて、GTR1は、硝酸輸送体と同様にリン酸化時には単量体、脱リン酸化時には二量体として存在することを確認した。また、グルコシノレートに対するWT、T135A、T135Dのミカエリス定数Km は、それぞれ61、62、27 μMであり、最大反応速度Vmaxは 282、350、18 pmol/hであったことから、単量体と二量体の基質親和性はほぼ等しいが、二量体の輸送速度は単量体と比べ著しく大きいことが分かった。一方、ジベレリンA3に対するWT、T135AのKm は1 mM以上であったが、T135Dの輸送活性は確認できなかった。以上から単量体GTR1はグルコシノレートのみを輸送し、二量体はグルコシノレートに加えてジベレリンを輸送するという多基質認識機構の一端を解明した。
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Strategy for Future Research Activity |
GTR1は、単量体型、二量体型でそれぞれ異なる基質認識農を持つことが分かった。一方で、昨年度に構築した実験系では、植物ホルモン ジャスモン酸イソロイシンに対する基質輸送能に関する知見は得られなかった。我々は、GTR1がシロイヌナズナゲノムにコードされる53種類のNPF輸送体ファミリーのいずれかと二量体を形成することで、輸送機質に劇的な変化があるのではないかと予想した。しかし、昨年度構築したBiFC系による二量体形成能評価では、このような大規模スクリーニングは不可能である。 瀬尾(理研)らは、植物ホルモンが、2つのタンパク質間の相互作用によって形成される共受容体と結合することを利用して、植物ホルモンアブシシン酸の輸送体を発見した。同様に、ジャスモン酸イソロイシンは、COI1とJAZの2つのタンパク質間相互作用によって形成されるCOI1-JAZ共受容体に結合する。これを利用して、輸送体候補遺伝子のスクリーニングを行うことができる。今後は、COI1-JAZ共受容体形成を利用した酵母ツーハイブリッド系に基づく植物ホルモン輸送体機能評価系を用いて、GTR1とシロイヌナズナの全てのNPFファミリー輸送体との組み合わせの基質輸送能を評価する実験系を組み立て、この仮説を検証する。
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Causes of Carryover |
昨年度、我々は、GTR1の二量体形成を評価する実験系として、BiFC系を構築した。一方で、BiFC系では、植物ホルモン ジャスモン酸イソロイシンに対する基質輸送能に関する知見は得られなかった。結論として、GTR1とGTR2の二量体形成だけでは、複数の基質輸送を説明することは難しいことが分かった。一方で、植物個体ではGTR1は確かにジャスモン酸イソロイシンを輸送するため、GTR1が53種類のNPF輸送体ファミリーのいずれかと二量体を形成することで輸送機質が変化すると予想した。しかし、BiFC系では、このような大規模スクリーニングは不可能であったため、実験を中断して新たな着想を練ることになった。その結果、「使用計画」で述べる酵母ツーハイブリッド系の利用を着想したが、実験に使用する酵母系の構築には長期間を要した。このため、当初予定した実験を翌年度に繰り越しせざるを得なかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
瀬尾(理研)らが構築した酵母ツーハイブリッド系をCOI1-JAZを利用した実験系へと展開し、これに基づく植物ホルモン輸送体機能評価系を用いて、GTR1とシロイヌナズナの全てのNPFファミリー輸送体との組み合わせの基質輸送能を評価する。このため、次年度経費は、大規模スクリーニングに要する各種消耗品費(薬品類、器具類)、および化合物ライブラリーの構築に必要な基本骨格の構築法をほぼ確立できたので、多様な化合物ライブラリーを構築するための消耗品費(溶媒類、試薬類)に使用する予定である。
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[Journal Article] GTR1 is a jasmonic acid and jasmonoyl-L-isoleucine transporter in Arabidopsis thaliana2017
Author(s)
Y. Ishimaru, T. Oikawa, T. Suzuki, H. Matsuura, K. Takahashi, S. Takeishi, S. Hamamoto, N. Uozumi, T. Shimizu, M. Seo, H. Ohta, M. Ueda
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Journal Title
Biosci. Biotechnol. Biochem.
Volume: 81
Pages: 249-255
DOI
Peer Reviewed