2016 Fiscal Year Research-status Report
植物・エンドファイト共生関係を成立させる未知ケミカルメディエータの同定と機能解明
Project/Area Number |
16K13090
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
太田 大策 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (10305659)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 植物共生微生物 / 宿主生育促進 / オーキシン / 側根原基 / 生理活性物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
植物と根圏微生物叢の間には多様な相互作用が存在する。植物は病原体の侵入に対して多様な防御応答反応を示す。植物共生微生物であるエンドファイトとの互恵的相互作用の確立初期においても防御応答が惹起されると考えられるが,植物の抵抗性制御に関する分子メカニズムに対する明確な説明はない。本研究では、エンドファイト感染時の植物応答反応を解析し,エンドファイトとの共生関係成立過程の解明を目的とした。
シロイヌナズナと担子菌エンドファイトPiriformospora indicaをモデル実験系とした。 P. indica は単子葉作物を含む様々な植物種と共生関係を成立させ,耐病性の増強,生育促進や収量増加などの有用効果をもたらす。P. indica はシロイヌナズナに対しても生育促進や病害抵抗性を誘導する。
P. indica 感染によって,シロイヌナズナの主要な抗菌物質(ファイトアレキシン)カマレキシン生合成の誘導を正に制御する転写因子 ANAC042 発現とカマレキシン高蓄積を確認した。P. indica 感染は,DR5:GUS 発現とともに,根系発達を誘導したことから,オーキシン生合成の活性化を介して宿主の発生・発達プログラムが誘導されると考えられた。両者を隔離培養した場合にもこれらの応答が観察され,根系発達誘導に低分子化合物(エフェクター)が関与すると推察された。そこで,この知エフェクターの同定と構造決定のための実験を開始した。P. indica とシロイヌナズナを非接触条件下で共培養した滅菌後の培養液中には,根系発達と DR5:GUS 発現,オーキシン生合成遺伝子発現を誘導するエフェクターが含まれることを確認した。これまでに,共培養液の分離・分画によって,シロイヌナズナの根系発達誘導に関わる複数成分を確認した。現在,このエフェクター単離のための実験を継続している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
シロイヌナズナとP. indicaの共生関係成立時の代謝応答と根系発達の分子機構の解明を目指し,特にTrpを前駆体とする二次代謝経路に着目して,実験を開始した。シロイヌナズナでは,オーキシン(IAA)に加え,防御物質ファイトアレキシン(インドールグルコシノレート,カマレキシン)がTrpを前駆体として生合成される。これまでに,P. indica 感染初期には,カマレキシン生合成を正に制御する転写調節因子ANAC042発現とカマレキシン蓄積が誘導されること,DR5:GUS発現(オーキシンレベルのマーカー)とともに側根数が顕著に増加すること,前述のように共培養液中に含まれるエフェクターは,根系発達とともに側根原基でDR5:GFPの発現を誘導することを明らかにしてきた。共培養液中には根系発達を誘導するレベルのIAAは検出されなかったことから, P. indica共生によって内生IAA生合成が側根原基特異的に誘導され,その結果として根系発達に至ると考えられる。 シロイヌナズナにおけるIAA生合成には複数の経路が存在する。TRYPTOPHAN AMINOTRANSFERASE of ARABIDOPSIS 1 (TAA1) とYUCCAの2段階の反応でIAAを産生する主経路(IPA経路)に加え,CYP79B2/B3によって生成するindole-acetaldoxime(IAOx)を中間体する経路,さらにtryptamine,あるいはindole-3-acetamideを経由する経路の関与も想定される。P. indica 感染によって誘導されるIAA合成経路を特定するため,cyp79b2/b3二重変異系統,IAOxを基質とするcyp71a12/a13二重変異系統を供試し,TAA1およびYUCCAの酵素反応阻害剤処理によって,内生IAA量(DR5rev:GFP)および側根原基誘導に与える影響を調べた。cyp79b2/b3の二重変異系統,cyp71a12/a13の二重変異系統,TAA1阻害剤処理では側根原基誘導の阻害は認められなかったが,YUCCA阻害剤処理は顕著に側根原基誘導を阻害した。これらの結果から,TAA1非依存的にYUCCAの基質を供給する経路が存在することが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
シロイヌナズナにおいて,Trpを前駆体とする二次代謝経路(インドールグルコシノレート,カマレキシン,オーキシンの生合成)に関わる遺伝子,および代謝経路のの変異系統を網羅的に解析,代謝経路中間体(indole glucosinolate類, indole-3-acetic acid indole-3-acetamide, tryptamine, indole-3-pyruvic acid, indole-3-acetaldehyde, indole-3-acetaldoxime, indole-3-acetonitrile)の定量分析を開始する(すでに稼働中のLC-MSによる分析)。特に,indole-3-pyruvic acid及び,indole-3-acetaldehydeを産生する未知経路の存在を念頭に,実験を継続する。シロイヌナズナとP. indicaの大量共培養を開始し,根系発達を誘導するエフェクターの単離・同定する。エフェクター活性は,DR5rev:GFP系統を用いて,側根原基誘導を指標とする。
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