2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K13093
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
高岡 洋輔 東北大学, 理学研究科, 講師 (80599762)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 蛍光イメージング / 植物生理学 / タンパク質 / ケミカルバイオロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、植物細胞・個体内において、機能性分子を望みの小器官へ送達する分子設計指針を確立し、セカンドメッセンジャー等の生理活性物質を時空間的に可視化する蛍光ケミカルセンサー開発につなげることを目標とする。市販の蛍光小分子センサー群は、動物細胞では頻繁に利用されてきたものの、植物細胞に特有の小器官である細胞壁への透過性と、液胞に疎水性分子が集積しやすいために、ほとんど利用できないのが現状である。この二つの小器官をかいくぐる新たな戦略を開発すべく、様々なアプローチから植物細胞内での小分子の局在制御を目指す。 本年度は、植物培養細胞内において、蛍光カルシウムインジケーターの局在制御に成功した。戦略は、植物細胞壁に透過性を有する天然物タンパク質リガンドを小分子センサーに共有結合で連結するものであり、このリガンドは植物細胞の細胞質及び核に発現させたタンパク質に認識され、小分子インジケーターの細胞内局在を制御するものである。この研究過程で、市販されている多くのカルシウムインジケーターが細胞壁を通らないか、通っても液胞に集積することを確認した。一方今回開発したリガンドを連結したインジケーターは、細胞質及び核に集積することが確認され、タバコ由来培養細胞へのカルシウム流入をリアルタイムに可視化することに成功した。この成果は、本研究の目的とする機能性分子の植物細胞内局在制御を達成する足がかりとして、次年度以降の進展が期待できる結果であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は植物培養細胞において、植物細胞壁に透過性を有する天然物タンパク質リガンドを小分子センサーに共有結合で連結した新規蛍光カルシウムインジケーターの開発と、その局在制御に成功した。このリガンドは植物細胞の細胞質及び核に発現させたタンパク質に認識され、小分子インジケーターの細胞内局在を制御するものであり、今後様々な植物細胞での展開が期待できる。一方で、本系は標的タンパク質を過剰発現した植物細胞では機能するものの、標的の濃度が低い野生型細胞では、分子が液胞に局在することが判明した。また、小分子インジケーターと天然物リガンドとの間のリンカー構造のわずかな違いによって、細胞壁への透過性が著しく変化することが確認された。これらの点は今後様々な機能性小分子の植物細胞内での局在制御を達成する上で重要な知見ではあるものの、未だ一般的な方法論にはつながっていないのが現状である。これらの状況から、予期せぬ様々な新知見は得られておりおおむね順調に進展しているものの、今後の展開ではさらなるブレイクスルーが必須であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度にて得られた様々な新知見を軸に、知見に乏しい「植物細胞内の局在制御」について効率的に構造を最適化するため、「小分子連結型蛍光分子」のライブラリーを構築する。いくつかの蛍光ライブイメージングで汎用的に利用される蛍光色素を母核として、本年度活用した天然物リガンドを含め、複数種類の小分子タグをClick化学により効率的に連結し、分子全体の疎水性などの物性を加味したライブラリーにすることで、見出された各種オルガネラへの局在化タグ(細胞壁、細胞質、核、ミトコンドリア等)を植物細胞オルガネラ用の小分子タグとして一般化することを目指す。それらの知見をもとに、pHやカルシウム等重要な生理活性物質イメージングにつなげ、実用植物での興味深い未知の現象を分子レベルで明らかにすることを目指す。 また本年度の検討にて、小分子インジケーターと天然物リガンドとの間のリンカー構造のわずかな違いによって、細胞壁への透過性が著しく変化した、という事実が何に起因するのかを調べるため、分子全体の疎水性以外に会合特性などその他の物理化学的性質を詳細に解析し、今後の分子設計指針につなげることも計画に盛り込む。これらの知見を総合し、最終的には、これまでにほとんど達成されていない植物細胞内での分子の局在制御を、いかなる機能性分子でも可能とする画期的な方法論へとつなげることを目指す。
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Causes of Carryover |
本年度は申請時に予備実験的に計画、実行した合成分子を用いて、培養細胞を譲渡いただきながら細胞実験を進めることができ、実際に論文及び複数の学会発表につなげることができた。植物培養細胞の扱いについても、異なる目的で使用した形質転換体を本研究に併用できた。一方、次年度以降は新たな合成分子ライブラリーの構築に必要な消耗品費、植物細胞の培養、蛍光イメージングなどの展開を計画しており、それに付随して学会や論文発表が複数可能となることが予想されたため、多くを次年度に繰り越すことにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本研究で目的とする機能性小分子の植物細胞内局在の制御に向けて、新たな有機合成分子の合成、及び植物細胞の形質転換や細胞培養、蛍光イメージングを実施し、そのために必要な消耗品費を物品費として計上した。またこれに付随して今年度中に本研究を元にした成果について複数の国内外の学会発表を計画しており、これにかかる旅費を計上した。またこの成果についての論文掲載等にかかる費用も合わせて計上した。
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