2018 Fiscal Year Research-status Report
イランの社会貢献活動から見る性別役割規範:女性が担う仕事概念の検討を通じて
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16K13120
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山本 明子 (村上明子) 北海道大学, 経済学研究院, 研究員 (50735826)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | イラン / 女性 / 性別役割規範 / 社会貢献活動 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでと同様に今年度も、家庭・コミュニティ単位での社会貢献活動・慈善活動の実態把握のため現地調査を行った。調査地は引き続きイラン北西部のアルダビール州アルダビール市である。そこでは、各家庭で行われている願掛け行動や女性の交流会への参与観察を行った。また昨年に引き続き、アルダビールおよびテヘランでいくつかのNGOと情報交換を行った。特に注目されるのは、女性の起業活動を支援しているテヘランのNGOである。当該NGOとの議論を通して、ICTの普及と社会関係の変化や女性のエンパワメントについて貴重な知見を得た。 さて、今年度の特記事項として、現地マクロ経済の急激な悪化が挙げられる。そこでイラン経済の停滞が女性たちの行動や思考様式にどのような影響を与えているか注意深くインタビューを行った。また、近年の急激な変化という点では、先述の通り、ICTの普及も大きい。実際に地方社会の女性たちの間でも、ここ数年でスマートフォンが一気に広まっている。スマートフォンやSNSが社会関係や行動様式に与える影響についてもインタビューや情報収集を行った。 アルダビールの調査では、女性たちがSNSを活用してファッション・芸術・文化・娯楽を楽しむ様子や、対面型のコミュニケーションがその拡大に大きく作用している様子が確認された。また手芸品の販売など、女性の経済活動にもSNSが積極的に活用されているケースも少なくない。その反面、取引相手との信頼関係や契約の結び方など改善の余地は大きい。 こうした個人・家庭単位で分散しがちな女性個人事業主の活動を促進するべく、イラン政府はモニタリングを強化し、官民連携下での支援策の充実を目指している。 以上の成果の一部は、論文としてまとめた。また国際ワークショップでの報告も予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
元々の予定では、9月から1カ月間、アルダビールの他にイラン中部のカーシャーンでも現地調査を行う予定であった。しかし出発日の9月6日未明に起こった北海道胆振東部地震の影響で調査計画の大幅な変更を余儀なくされた。 結果として1カ月遅れの10月に現地に赴き、期間を10日間に短縮して調査を行った。なおスケジュールの都合上、調査地もアルダビールのみとした。この調査時に関係者と調査内容の再検討を図った。現地関係者のアドバイスを踏まえて、年明けの2月にアルダビールで行われる大規模な願掛け行事への参与観察を行い、その調査をもって本計画の現地調査を終了することとした。しかし、準備期間が少なく各種手続きに予想以上に時間がかかったこともあり、2月の調査は翌年に延期することとなった。 以上の理由で、本計画は補助期間を延長することとした。研究計画の再検討と延長を余儀なくされたことから全体状況としては遅れている。しかし、調査計画そのものは十分に練られており、現地とのやり取りもスムーズに進んでいる。来年度の計画遂行によって、上記の遅れは十分に取り戻せるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度をもって本計画は終了する。次年度もアルダビールでの調査を重ね、またテヘランで関係するNGOと情報交換を進めることで、課題の構造化を図りたい。 今年度の調査では、景気動向や国際関係の影響もあり、女性の経済的エンパワーメントの向上が限定的となっていること、それに対して女性たちの不満が大きくなっていることが確認された。こうした状況によって、家庭・コミュニティ単位の互助活動や社会貢献活動にこれまでの以上に意義が見出されている。 かかる状況については、イランの国内だけでは如何ともし難い問題も多いが、当局も情報収集やモニタリング体制を見直し、官民連携の強化による社会状況の改善に取り組んでいる。 総括の方向性としては、社会貢献や慈善行為に関するイラン女性個々人の意識や行動様式を整理し、それらが組織化されるパターンと未組織の状態で展開されるパターンの両者を構造化したい。また、これらの動きと政策支援との相互作用のあり方を検討していくものとする。 最後に、イラン女性の関わる領域や、彼女たちが直面している規範や選択肢への意識(潜在的/顕在化ともに)の把握方法、また「仕事」「役割」への解釈と実践方法を考察する。
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Causes of Carryover |
『現在までの進捗状況』でも言及したとおり、9月6日未明に起こった北海道胆振東部地震の影響で現地調査計画の大幅な変更を余儀なくされた。結果として、今年度予定していた現地調査の規模を縮小し、現地の関係者と調査設計の見直しを行うこととなった。 現地関係者のアドバイスを踏まえて、2月に地方で行われる願掛け行事への参与観察を行い、その調査をもって本計画の現地調査を終了することとしたが、準備期間が少なく各種手続きに予想以上に時間がかかったこともあり、当該調査の実施は次年度に延期することとした。 以上の理由で、次年度使用額が生じた。延期した調査は来年2月に実施する予定であり、これに次年度使用額を活用していく。
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Research Products
(2 results)