2017 Fiscal Year Research-status Report
「フロンティア社会論」再考――北洋漁業における季節労働者の個人史に着目して
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16K13121
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
赤嶺 淳 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (90336701)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
椙本 歩美 国際教養大学, 国際教養学部, 助教 (90648718)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 南氷洋捕鯨 / 北洋捕鯨 / 出稼ぎ / 留守家族 / 記憶 / 市民劇団 |
Outline of Annual Research Achievements |
青森県と秋田県から北洋捕鯨と南氷洋捕鯨に多数の出稼ぎ者が参加していたことは、日本捕鯨史上、周知の事実である。研究代表者の赤嶺は、秋田県大仙市を中心に北洋/南氷洋に出漁した捕鯨者に個人史の聞き取り調査をおこない、その一部はすでに公表している。しかし、青森県出身の捕鯨者が出漁にいたった経緯や実際に経験した内容に関する具体的な情報が入手できずにいたが、2017年度に八戸市(旧南郷村)において、大洋漁業の捕鯨船団に参加した人びとにインタビューする機会をえた。興味深いのは、旧南郷村から、かつて捕鯨船団に参加した人びとが多数いたことを、八戸市が、地域史の一部として記録しようとする動きがあることである。その一貫として、捕鯨をテーマにした市民劇も企画中であり、その関係者と「捕鯨の記憶」継承の意義について協議できたことは、捕鯨史研究を拓くものであると言える。それは、捕鯨を単に「鯨を獲る」という行為に限定するものではなく、地域経済と地域社会の中軸として位置づけ、地域の文脈のなかで理解しようとするものだからである。少子高齢化、地域経済の停滞、反捕鯨運動が高まりをみせるなか、こうした捕鯨の記憶を地域おこしに活用しようとすることは、日本の水産業の歴史を振りかえり、その将来を見据える際にも、有意義なものとなると考えている。研究分担者の椙本は、秋田県仙北市西木町で2017年8月に、農村の暮らしや出稼ぎの経験についてのオーラル・ヒストリーを4名2家族から採録した。3世代にわたる農家への聞き取り調査を通して、秋田の家族、農村・農業のあり方、それをとりまく社会の変化と継続性への理解を深めることができた。調査の結果は、日本オーラル・ヒストリー学会で2017年9月3日に口頭発表した(於、近畿大学)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
青森県から南氷洋/北洋に出漁した人びとの記録は、ほとんどなく、捕鯨史研究において手薄な部分となっていた。その一部が調査できたことは、2017年度の最大の成果である。出漁者の年齢が80歳以上が中心となるにおよび、その記録の採取が急務なだけではなく、かれらが船を降りて以降に歩んできた50年ほどの人生を同時代人として理解することも、日本における捕鯨史の研究課題の一部だと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
青森県での聞き書き調査を進めるとともに、秋田県の事例と比較検討する。また、旧南郷村で進んでいる捕鯨をテーマにした市民創作劇の進捗状況を調査しながら、捕鯨の記憶が地域おこしにはたす意義について明らかにするとともに、北洋漁業・北洋捕鯨の水産業、地域史にはたした意義を解明する。秋田県における、捕鯨経験の継承策についても、青森県の事例を参考に、関係者と協議する。
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Causes of Carryover |
発注した洋書が、2017年度末までに納品されなかったため、2018年度に購入する。
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Research Products
(8 results)