2017 Fiscal Year Research-status Report
日本帝国と草原-20世紀初頭における内モンゴル東部草原からの有機物流出過程の検証
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16K13125
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
永井 リサ 九州大学, 総合研究博物館, 専門研究員 (60615219)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小都 晶子 立命館大学, 言語教育センター, 嘱託講師 (00533671)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 環境史 / 生態史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、20 世紀初頭の内モンゴル東部草原からの有機物流出の一経路として20世紀初頭における大連-鹿児島間の「獣骨貿易」を検証することを主要な目的とするが、本年度は研究の中間年度として研究代表者が学会発表及び海外における資料調査を実施したほかに、研究分担者・連携研究者が参加して研究会を2回行い(大阪、天津)、各研究分担の確認、来年度への研究の進め方について議論をおこなった。大阪研究会では天津市档案館で行った資料調査に関する報告を行い、天津市档案館で「屠畜場」関連档案を多数見出したことにより、獣骨肥料の原料供給地として、初期における獣骨の生産地である草原から「屠畜場」に着眼するという新視点を得た。また「屠畜場」に着眼することにより、本科研の研究協力者で「獣疫」を担当している小都とより関連性のある研究が可能となった。また初年度から院生を雇用して行っている九州大学農学部所蔵の戦前旧植民地関連資料の整理では、東アジア肥料貿易に関する資料のスキャナー作業を進めており、まもなくインターネットで公開予定である(今年度から公開の予定であったが、九州大学伊都キャンパス移転の関係で、年度途中で追加資料があったため、データ公開は来年度以降となった)。学会報告では研究代表者の永井が上記資料整理によって得た知見や、前年度行った中国・青島市における資料調査に基づき、社会経済史学会にて「戦前における大連-鹿児島間の獣骨輸出の開始について」(2017年5月27日、慶應義塾大学)という報告を行った。また今年1月に中国・天津市档案館で資料調査を行い、畜産取引に関する商会档案だけでなく近代天津の屠畜場関係档案を閲覧し、中国北部の草原から産出される家畜類が張家口を経て天津に入り、獣骨生産地としての「屠畜場」というルートを経て日本へ至るといった新たな視点を得た。これは次年度の研究総括に向けて大きな成果といえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は中間年度ということもあり、全体研究会においては本科研の研究課題および研究方法の確認とそれぞれの役割分担の明確化に焦点を当てた。本科研の特徴の一つは、近代における中国北部における急激な草原の減少過程を獣骨貿易=リン資源流出から再検討する点にあり、その具体的な流出経路の一つとして日露戦争後から始まる大連-鹿児島間の獣骨貿易の解明が重要となる。そうした視点から、本年度の成果として、研究分担者である小都は獣骨貿易=獣疫・畜産衛生の面から資料整理を進めており、永井は前年度の中国・青島市における資料調査と九大農学部資料整理によって得られた成果から大連-鹿児島間の獣骨貿易開始経緯の実態を解明した。また今年1月における中国・天津市档案館での資料調査によって、初期に草原から掘り起こされ運ばれていた獣骨が、1910-20年代には都市の屠畜場から供給され、そのまま、あるいは骨粉肥料に加工され長崎・鹿児島へ輸出されるという、獣骨流通における近代化についても検討が可能となった。さらに本科研で検証すべき対象の一つとして「屠畜場」が浮上したことで、研究分担者で「獣疫」を担当している小都との研究関連性もより明確になった。さらに、初年度から行っている九州大学農学部所蔵の植民地関連資料整理であるが、九大移転の関係で追加資料があり、整理対象点数が増えたことにより引き続き資料整理作業が必要となったため、データベースの公開は来年度への持ち越しとなった。また、国内国外で2回の研究会(大阪、中国天津)を行い、中国天津市では天津档案館、天津市図書館の地方志資料室で、畜産貿易に関する商会及び天津市屠畜場に関する档案類(「天津日華連合牛業協会」「天津特別市屠宰場」「天津屠宰場」等)を確認することができた。以上の点から、本科研の研究計画はおおむね順調に進展していると言えよう。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度は研究の最終年度であり、中間年度の概況把握をふまえてより専門的・個別的な研究を行う。具体的には、獣骨肥料、農業行政、商業の各班の研究を予定通りに進めるとともに、京都市(予定)での全体研究会及び日本土壌肥料学会や「日本帝国と草原シンポジウム」、肥料史研究会をはじめとする文理両方の学会・シンポジウム・研究会での研究発表を予定している。各班の研究では、獣骨についてはまず大連―鹿児島間の獣骨貿易の近代化過程を明らかにし、あわせて天津―日本間、青島―日本間の獣骨貿易についても、中国都市における「近代屠畜場の成立」も視野に入れつつ検証を行う。畜産行政方面については小都が20世紀初頭の満鉄による初期の畜産物衛生管理や、「満洲国」における獣疫の立ち上げ状況の実態を具体的に明らかにする。獣骨貿易に伴う人々の移動については、連携協力者である青島理工大学の李勁松が、天津・青島等の山東省を中心に検討を行い、商業方面については、研究協力者の上田が20世紀初頭における山東商人の「山貨商」や山西商人による毛皮や畜産品取り扱いの実態を明らかにすることで、どのように草原副産物である獣骨が、どのようなルートを経て長崎・鹿児島まで輸出されるに至ったのかについて検証を行う予定である。
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Causes of Carryover |
今年度からの公開を目指し、整理及びスキャン作業を行ってきた戦前九州帝国大学農学部資料(「東アジア肥料貿易データベース」)であるが、2018年度9月に完了する九州大学箱崎キャンパスから伊都キャンパスへの移転の関係により、年度途中で整理対象となる資料に追加があったため、計画的に来年度分の資料整理費を繰り越すこととした。昨年度と同じく各専門分野の院生を雇用し、残りの資料整理・スキャン作業に使用する予定である。
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Research Products
(4 results)