2016 Fiscal Year Research-status Report
トランスジェンダーとインターセックスのスポーツ参加における公平性と倫理の研究
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16K13136
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
松下 千雅子 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (90273200)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | スポーツ / トランスジェンダー / インターセックス |
Outline of Annual Research Achievements |
トランスジェンダーとインターセックスの選手によるスポーツ大会への参加は、これまで多くの論争を招いてきた。トランスジェンダー女性とインターセックス女性の身体は他の女子選手よりも有利であり、それが不公平さを生み出すという推定のもとに、彼女らはオリンピックやその他のスポーツ競技会の歴史において、長年にわたり女子競技から排除されてきた。他方、学校や地域の運動会など競技レベルの低いスポーツ大会では、近年、彼女らの参加がよりいっそう奨励されるようになってきている。このような態度の相違は、トランスジェンダーやインターセックスの参加の可否が、スポーツ大会ごとの競争レベルによって左右される可能性があることを示唆している。そこで本研究では、競争についての価値観がトランスジェンダーとインターセックスのスポーツ参加に対する態度に影響していると考え、各競技レベル別にその関連性を探った。 名古屋のLGBTプライドイベントである「虹色どまんなかパレード」で調査を行った結果、18歳から65歳までの89名から回答が得られた。調査では、ジェンダー・アイデンティティとセクシュアル・アイデンティティ、スポーツ経験、オリンピックへの関心、競争社会に対する態度とともに、トランスジェンダーとインターセックスのスポーツ大会への参加について、学校の運動会、地域のスポーツイベント、地方大会、全国大会、国際大会という大会レベル別の条件緩和肯定度を測定した。 その結果、大会レベルが上がると条件緩和肯定度が下がること、そして競争に価値をおく人ほど条件緩和肯定度が低く、最も高いレベルの大会ではこの傾向が特に顕著に見られることが明らかになった。厳格な性別二元化の上に成り立つ女子スポーツは、競争の価値と、トランスジェンダーやインターセックスの人権尊重とが矛盾し、互いに排除し合う場になっているといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今回の調査では、トランスジェンダーおよびインターセックスの競技者のスポーツ大会参加条件、および女子選手への性別確認検査の是非について、スポーツ・競技スポーツへの参加頻度、オリンピックへの関心の程度、ジェンダー・アイデンティティ、競争社会への認識、大会レベルなどとの関連にもとづいて考察した。 性的マイノリティのスポーツ参加に対する条件緩和は、大会レベルが上がるにつれ否定される傾向にあり、競争レベルが高いスポーツ大会ほど、身体的に有利であるとされるMtFトランスジェンダーとインターセックスの選手を女子競技から排除し、競争の公平性を望む傾向にあると結論づけられる。大会レベルの上昇に伴う条件緩和肯定度の減少は、競争を好ましく思う価値観によってさらに強められている。しかしながら低い大会レベルにおいては、競技スポーツを行っている層が競技スポーツを行っていない層と比較してトランスジェンダーの選手が参加しやすい環境を望んでいることがわかった。 本調査の結果をもとに、学会誌の査読付き研究ノート(2017年度発行予定)、国際研究集会での発表2回、プロシーディングズ1本と、着実に成果を出すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本調査では、スポーツや競争社会に対する価値観を中心に据えて考察を行ったが、これに加え、女性の身体を保護すべきものであると考えるジェンダー観、女性同士の繋がりを重視するシスターフッドなども関与している可能性がある。よりサンプル数の多いデータでの分析を目指すとともに、これらの事柄がスポーツについての価値観へ及ぼす影響を含めた詳細な考察を今後の課題としたい。
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Causes of Carryover |
当初の計画では今年度中にパイロット調査及び本調査を行う予定であったが、パイロット調査において小規模ではあるが良好な研究結果を得ることができたため、その結果に基づき論文を作成することを優先し、本調査は次年度に行うことにした。また、次年度以降に質的調査を合わせて行う予定であり、その分析ツールとしてソフトウェアを前倒しで購入した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
大規模な社会調査のための費用に充てる。
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