2016 Fiscal Year Research-status Report
『ドイツ・イデオロギー』のオーサーシップに関する実証的研究
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16K13159
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
窪 俊一 東北大学, 情報科学研究科, 准教授 (50161659)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
玉岡 敦 東北大学, 経済学研究科, 博士研究員 (10712268) [Withdrawn]
大村 泉 東北大学, 経済学研究科, 名誉教授 (50137395)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ドイツ・イデオロギー / 社会思想史 / 編纂学 / 文献学 / オーサーシップ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、マルクス/エンゲルスの独自な歴史観である唯物論的歴史観の主要命題が最初に登場する『ドイツ・イデオロギー』の草稿作成でイニシアティブをとったのがマルクス/エンゲルスのいずれなのかという未解決の問題に、文献学的・編纂学的アプローチから最終的回答を与えようとするものである。 研究打合せ会議を開催後、分担に従って、『ドイツ・イデオロギー』第1章基底稿への即時異文(削除箇所)を、新MEGAアパラート巻の異文一覧とテキスト巻当該箇所、及び草稿オリジナル画像を参照・対比しながら組み入れ作業を行った。新MEGAの即時異文から実際に削除された要素(文言)を抽出し、基底稿に組み入れることで、即時異文が生じた理由や特質を明らかにすることを試みた。平成28年度は、『ドイツ・イデオロギー』第1章後半部分(マルクスのページ付けで40-72頁、以下、Entwurf 40~72と略記)を行い、即時異文削除箇所の分析を行った。 草稿同章後半には400箇所余の即時異文箇所があり、統計的手法を用いて『ドイツ・イデオロギー』と同時期に執筆された他のマルクス及びエンゲルスの著作との比較検討を併せて行った。その際、同音異義語の削除箇所を重視し、当該箇所の発掘を行った。 これらの成果は、学術論文として発表すると同時に、平成29年度に開催される国際会議での発表が決定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究は概ね予定通りに実施している。『ドイツ・イデオロギー』第1章後半部分の即時異文削除箇所、同音異義語の削除箇所の確認を終了し、また、削除箇所を基底稿に組み入れる作業も行った。これらの即時異文削除箇所を検討し、以下の学術論文としてまとめることが出来た:「口述筆記説に基づく『ドイツ・イデオロギー』I.Feuerbachのオーサーシップ再考」 公表誌:[日本]マルクス・エンゲルス研究者の会機関誌『マルクス・エンゲルス・マルクス主義研究』第59号、2017年(印刷中、近刊予定)。 本稿では以下のことをまとめた:I.研究史の到達点と未解決問題 ①研究史概観 ②口述筆記説再考は急務 II.基底稿作成過程で生まれる即時異文の多寡 III.単独稿とEntwurf40~72の基底稿に刻印された著者の書き癖 ①エンゲルスの書き癖 ②マルクスの書き癖 ③Entwurf40~72に認められる著者の書き癖 IV.即時異文の量的対比 V. I.Feuerbachの即時異文の特徴 ①同音異義語の書き損じ ②多数の定冠詞、不定冠詞の置換及び削除 ③直ちに復活する削除訂正 VI.検証結果 この論文については、同時並行で中国語訳、英訳が進行中であって、中国語訳は中国における社会科学・哲学分野のトップジャーナルの一つである『清華大学学報』(北京・清華大学)で公表が確定している。英訳は、Gilbert Faccarello(パリ第2 パンテオン・アサス大学)など、フランス著名大学関係者を筆頭に全欧州規模の関係者が主催してリヨン(フランス)で開催される国際会議「1818-Karl Heinrich Marx-2018」で、研究分担者の大村が、共同研究者を代表して報告することが確定している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は『ドイツ・イデオロギー』第1章後半部分(Entwurf 40~72)を中心に即時異文箇所を抽出し、基底稿への組み入れ作業、分析を行った。今後は、草稿同章前半(Entwurf 1~29;30~35)に集中して同様の作業を行う必要がある。Entwurf 40~72の事例研究から、草稿作成でイニシアティブをとったのがマルクスではないかという推測が成り立つので、この推測が、草稿同章前半(Entwurf 1~29; 30~35)にも成り立つことを確認する作業・検討を行う必要がある。肝要なのは、Entwurf 40~72の事例研究で明確にした著者の書き癖が、書体はエンゲルスのものだが、膨大な即時異文はマルクスのものと推断する他なく、結局、Entwurf 40~72の真の著者はマルクスであって、この部分はマルクス口述・エンゲルス筆記であったという理解が、Entwurf 1~29; 30~35でも妥当なことを確認するところにある。 そこで、草稿オリジナルと解読原稿とを厳密に照合比較し、①Entwurf 1~29; 30~35の即時異文数を確定し一覧表記すること、②一覧表記した即時異文の中の同音異義語の書き損じ有無の検討、③多数の定冠詞、不定冠詞の置換及び削除例の有無、④直ちに復活する削除訂正の有無、等を設定することである。 Entwurf 1~29; 30~35では、草稿オリジナル右欄にも長文の書き入れがある。左欄の基底稿への補完や独立したコメントである。今年度執筆の論文では、仮説として、これらの補完や独立したコメントのうち、短文のものはエンゲルス独自の判断で記入されたものとみて良いが、エンゲルスの筆跡で長文のものについては、基底稿と同様マルクスによる口述筆記の可能性があるとした。今年次の検討では、この仮説の妥当性も重要な検証課題になる。
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Causes of Carryover |
物品の価格が少し安くなったため2円の次年度使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2円と少額であり、次年度で消化する。
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Research Products
(1 results)