2017 Fiscal Year Research-status Report
モダニズムの思想圏における保守的文化相対主義の位相-ゴビノーからマルローまで
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16K13161
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
吉澤 英樹 南山大学, 外国語学部, 教授 (30648415)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 文化相対主義的古典主義 / 西洋の没落 / 文化的他者としての黒人とユダヤ人 / 共和主義の錯綜 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究期間2年目にあたる平成29年度は、前年度の予備調査に基づき、そこで提示した理論的仮説を検証していくために具体的な手順に沿って「保守的文化相対主義」を反映した個別事例として資料を分析していくことを予定していた。具体的な手順として、前年度の研究において問題系を抽出した「保守的文化相対主義」が政治的に相反する陣営においてどのように共有されているか実証することを目指した。その一例として、第一次世界大戦を経た西欧世界の没落に関するデカダンス論にその反響として、作家ピエール・ドリュ・ラ・ロシェルのエセー『フランスの測定』とその周辺テクストを分析したものを2017年7月に学習院大学で開催された研究会において口頭にて発表した。この事例研究により、第一次世界大戦を経て、ヨーロッパ外部の他者の存在を否応なく認識するようになった戦後の言説場において、フランス固有の古典主義美学というものがモダニズムの文脈において相対化され、普遍を目指す反動的な古典主義美学と対置する一つの立場となったことを明らかにした。また2018年1月には国際シンポジウム「アフリカ・カトリシズム・文化相対主義-ライシテの時代におけるプレ-モダン的徴表のゆくえ」を東京大学本郷キャンパスにて柳沢史明氏が研究代表者をつとめる科研費プロジェクトと共同で開催した。そこで行ったフランス語口頭発表では、植民地主義者の作家アンドレ・ドゥメゾンを取り上げ、共和主義のイデオロギーに沿う形でアフリカの原住民やその文化に対するシンパシーを見せる反面で、後年反ユダヤ主義に傾倒していく道程を分析し、第三共和政期における保守的文化相対主義のもう一つの形であることを示した。また課題となっていた共同研究班の組織に関しても、シンポジウムにおいて他分野の研究者との交流を通してその基盤を作ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は新たな研究環境で態勢を整えるのに時間を要した一方で、学外の研究プロジェクトに発表者として招待されたり、他の科研費プロジェクトと国際シンポジウムを開催するなど、個人研究から共同研究へと開けるような状況と学術的な視点を得ることができ、それが研究の進捗に良い方向に作用した。
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Strategy for Future Research Activity |
学外の研究会や国際シンポジウムにおいて他分野の研究者と交流することにより、共同研究へと発展する目処が立った。具体的には第三共和制期の保守的なキリスト教会の側からのライシテへの反応ならびにそこに見られる文化相対主義について知見を持つ江島泰子(日本大学法学部教授)ならびに、研究テーマにあるアルチュール・ド・ゴビノーの専門家である長谷川一年(南山大学法学部教授)が最終年度から当プロジェクトの研究分担者に加わることになった。このような態勢の下、来年度は国際シンポジウムにおける各自の口頭発表を発展させたものに加え、新たな研究者を執筆陣に迎え、成果論集を年度内に刊行し、第三共和政期における保守的文化相対主義の相貌についての見解を世に問う予定となっている。
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Causes of Carryover |
今年度は国際シンポジウムを開催するために、シンポジウムに関わる旅費・謝金以外の出費を極力抑えた。そのために次年度使用額が生じた。繰越分と当該年度助成金は、共同研究としての成果論集を刊行するための費用や研究成果を発表するための旅費として主に使用する予定である。
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Research Products
(5 results)