2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K13168
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
泉 武夫 東北大学, 文学研究科, 教授 (40168274)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 絵絹 / 仏画 / 素材論 |
Outline of Annual Research Achievements |
28年度は、本プロジェクトで出来る調査対象を絞り込み、さらに主要な作品所蔵者・寄託者への事前調整を行った。おもな機関として奈良国立博物館と京都国立博物館があり、それぞれの担当者と面談して今後の調査の進め方や、その時期、対象作品などについて協議した。 年度後半には実地にいくつかの作品の絹目について調査を行った。奈良国立博物館では、東大寺所蔵の「四聖御影 建長本」同じく「華厳海会善知識曼荼羅図」である。前者は制作年代(建長8年・1256年)の明確な鎌倉時代の大画面仏画であり、とくに絹目について本プロジェクトに有益な新情報を提供した。この「四聖御影」は従来、四枚の絹を継いだものと考えられていたが、今回の調査でじっさいには一枚の広絹であることが判明した。後者はそれよりも時代がやや下降する作品(永仁2年・1294年)だが、巾広の一枚絹からなることで重要である。ただし、前者が比較的稠密であるのに対し、約40年後の後者はかなり組織が粗めになっている。 京都国立博物館では、14世紀初めとみられている金戒光明寺所蔵の「山越阿弥陀図」「地獄極楽図屏風」について、調査を行い、えてして一対と考えてられているこの作品群は絹目が違うこと、さらに「山越」は通常の絵絹ではなく、平織の絹を用いていることが、はじめて確認できた。きわめて有意義な成果と考える。すると、この屏風群は、同じ時期に同一の制作背景のもとに制作されたという従来の説は、少なくとも否定されなければならず、再検討が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
28年度は本プロジェクトの開始年度にあたっており、まず当該期間における調査可能作品の選定と、その見通しを整理し、作品所蔵者・保管者に対して依頼を行うのが、主要な作業であった。おおむね、保管者からは好意的な返事が得られ、一部の作品は調査を開始することができた。とりあえず、順調な進捗状況であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平安時代から南北朝時代までの主要な仏画作品はかなりの数にのぼる。年紀を伴う仏画、ないし制作年代が判明する仏画だけでも数十点は挙げることができる。そのなかで、効果的に調査作品を絞りこむためには、制作背景がはっきりしているもの、さらには巾広の一枚の絹から出来ているものを取り上げるのが理想的である。 そうしたものの中で、調査可能な作品を、所蔵者に許可申請をしながら地道に調査研究を進めてゆく以外に、本テーマ研究を推進する方法はない。今後もこの方針で進めてゆく予定である。
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