2018 Fiscal Year Annual Research Report
A Study of Silk Weave and Period Styles in Japanese Painting
Project/Area Number |
16K13168
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
泉 武夫 東北大学, 文学研究科, 名誉教授 (40168274)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 絵絹 / 仏画 / 素材論 / 日本絵画史 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度に当たる2018年度は、鎌倉時代から南北朝時代にかけての制作年紀を伴う基準作とその周辺作品について、絹目の調査および様式的特色について調査・研究を実施した。箱書に1232年の制作を示すとみなされる書き込みのある神護寺蔵「真言八祖」の絵絹を調査し、鎌倉時代前半の組織の特色を確認することができた。当該作品については、12世紀末期に遡るとする意見もあるが、やはり箱書の年紀のほうが年代特定とするにふさわしいことが絹目からわかった。 つぎに、尾道浄土寺の「仏涅槃図」は1274年制作ということが軸書きなどから判明する作品で、数少ない13世紀後半の基準作のひとつである。ただしこの作品を調査した結果、用いられている基底材は絵絹ではなく平組織の絹であることが判明した。釈迦の頭髪には結縁者の髪と思われる素材が用いられており、注文主のなんらかの思惑が強く反映していることが明確となった。 奈良国立博物館では、鎌倉時代後半の文殊菩薩騎獅像の複数の作例を調査した。原本となったと思われる西大寺本には、当該期の絵絹の特色を認識することができた一方、これと同じ図様で1334年の年紀がある個人蔵の作品では、平組織の絹であることが判明した。本作品は、裏書から文観が亡母の小袖を使って描いたことがわかり、故人ゆかりの素材を用いていることが明確にわかる点できわめて重要である。歴史史料にはその種の事例が散見され、また遺例のうえでも平組織の仏画が複数存在することは知られているが、これらが故人のゆかりの素材であることが実作品として初めて確認された。これらは仏画の素材研究にとっては大きな成果といってよい。
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