2016 Fiscal Year Research-status Report
聖地オリュンピア-戦闘行為の抑止への宗教および視覚芸術の関与
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16K13169
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
長田 年弘 筑波大学, 芸術系, 教授 (10294472)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ギリシア美術 / ギリシア宗教 / ギリシア神話 / オリンピック / ギリシア彫刻 / 戦勝記念碑 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、古代ギリシアの代表的な聖域であったオリュンピアの運営主体に、都市国家間の抗争を抑制するいわゆるパンヘレニズムの明確な概念が存在していたことについて検討することにある。近年の歴史学は、この概念(いわゆる平和の祭典)についてしばしば否定的に言及する。本研究は、聖域への奉納物、および主神ゼウスを表現する神話図像に関して調査し、こうした見解に対して問題提起を行う。ギリシア民族同士の戦闘を忌避ないし調停する要素が、ゼウス信仰に胚胎していた可能性について、芸術の検討を通じて検証を試みる。戦勝記念彫像、分捕り品記念柱、仲介者ゼウスの図像、の三つの分野において研究を進め、オリュンピア聖域において「平和の祭典」の性格付けがなされた可能性について考察する。共同体間の戦争の抑制に、宗教と視覚芸術が関与したと推定しうる事例を研究対象とする。 三つの観点について、今年度は研究を進めた。1.一般に古代ギリシアでは、聖域に戦勝記念彫像を奉納する習慣があったが、こうした記念彫像の碑文は、オリュンピアにおいては、ギリシア民族同士の戦闘を明示しないように配慮されていたとする研究がある。本課題においては、主に前6世紀と前5世紀の奉納彫像を調査して検証を進めた。作例は、オリュンピア聖域に加えて、デルフォイ聖域を取り上げ、比較対照した。2.古代ギリシアでは、戦争の分捕り品(武具等)を支柱に掲げて戦場や聖域に建立する習慣があった。こうしたトロパイオン建立は、オリュンピア聖域において、前5世紀中頃に禁止されたことが判明している。検討されることの少ないその経緯について調査した。3.前6世紀と前5世紀の神話図像における、「闘争を仲裁するゼウス神」のイメージを分析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
古代オリンピックの開催時に課された、休戦等の禁忌については、主に宗教史の分野において美術史とは切り離されて論じられてきた。一方、戦勝記念彫像とトロパイオン建立に関しては、美術史ないし考古学において研究が進められ、ゼウス図像に関しては、美術史のみにおいて論じられてきた。しかし、これら複数の学問領域において、別個に論じられてきた現象は実際にはゼウス信仰を共通の背景としており、族長神ゼウスの特殊な性格が、様々な領域において形を変えて顕在化していた可能性について検討した。本研究においては、これらオリュンピア聖域に関わる事例に着目し、宗教と美術の社会的影響力について考察を進めている。 古代ギリシアにおける「休戦使節」は、確かに、同一民族内における和平の試みに過ぎず、他民族との融和など、近代的な意味での国際平和を目標とするものではなかった。しかし、そのような歴史的限界を認めつつも、宗教と視覚芸術が、平和の勧告という社会的役割を果たした事例を明確に定義し、ゼウス信仰における未解明の側面に光を当てている。 これまでの研究成果については、論文を作成し、BABESCHあるいはAmerican Journal of Archaeologyへの投稿のための作業を進めている。また日本国内の学会発表等の準備を進めている。平成28日9月2日から12日にかけて、アテネ、オリュンピア、ベルリン、ドレスデンにおいて海外調査を行った。平成28年6月4-6日に大阪大学において開催された日本西洋古典学会大会、11月5日に東京大学において開催された古代ギリシア文化研究所の研究発表に、それぞれ参加し、関連課題について討議した。
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Strategy for Future Research Activity |
1.戦勝記念彫像について F. Felten 1982 の先駆的な研究によれば、古代ギリシアの代表的な二つの聖域である、デルフォイとオリュンピアにおける戦勝記念彫像を比較すると、その碑文には明らかな相違が見られるという。すなわち、前5世紀と前4世紀のデルフォイにおける奉納記念物の台座碑文は、奉納者である戦勝国の名前と同時に敗戦国の名前も明示するが、オリュンピアにおける台座碑文は、奉納者の名前のみを刻み、戦闘の敵であった敗戦国に関しては言明を避ける傾向があるとされる。(Rups 1991も同意見。ただしM. Scott 2010は批判。)二つの見解について、客観的な分析を行う必要がある。 2.トロパイオンについて 古代ギリシアの聖域にしばしば建立されたトロパイオン(分捕り品記念柱)は、オリュンピアにおいては、前440年頃に建立が禁止され全てが地中に埋められたことが判明している。その理由について、Felten 1982, Stiewert 1996, Jaquemin 2000, Scott 2010その他は、ギリシア国家間の戦闘の露骨なディスプレイが禁止されたと見なす。トロパイオンは、とりわけ古代オリンピック競技の行われたスタディオン周辺の土手に建立されたため、競技観戦者を配慮した結果、聖域の管理者によって建立が禁止されたと考えられている。しかし反対意見もある。トロパイオン建立禁止後も、そもそも聖域内には戦勝記念彫像は変わらず建造されたため、建立禁止は「民族内の平和の顕示」のためとは見なしがたいとする見解もある。こうした論点について検討を進める必要がある。
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Causes of Carryover |
限度額を超える図書資料の購入を控えたため、少額の繰越金が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度と同様に、アテネ国立考古博物館、新アクロポリス美術館、オリュンピア遺跡、オリュンピア国立考古博物館における現地調査を中心に研究を進める。さらに、関連主題に関して、2018年2月26日から28日に、オーストリア、ザルツブルグ大学において開催される、第17回オーストリア古典考古学会大会における研究発表を行う予定である。ドイツ語口頭発表原稿は、Phoibos Verlagから2019年に刊行される予定のプロシーディングに掲載されるため、原稿執筆にあたりドイツ語推敲のための校閲料を支払う。その他、古代ギリシア美術史関連資料を購入する。
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Research Products
(6 results)