2017 Fiscal Year Research-status Report
インド映画の“新しい波”「新中間層シネマ」の誕生―インド映画研究の確立を視野に―
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16K13172
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
山下 博司 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (20230427)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | インド映画 / 中間層 / ヒンディー語 / ボリウッド / ディアスポラ / 移民 / マーケット / オーディエンス |
Outline of Annual Research Achievements |
2000年代に入って顕著になっているインド娯楽映画界の動きとコンテンツの変容につき、多様な角度から取材・調査し、インド映画の新局面を浮き彫りにしつつある。具体的には、話題作が上映されているシネプレックス等に足を運んで観客の動向や嗜好を取材するとともに、インタビュー調査をおこなって生の声を集めた。インド本国にとどまらず、とりわけ新しい動きの震源とも言える在外のインド系社会(PIOとNRIから成る在外インド系住民)でのインド娯楽映画の受容を集中的に調べ、昨年度末の新移民の集住するヨーロッパ(ドイツ)での調査に続いて、旧移民を中心にしつつも新移民も集まる東南アジア(マレーシア、インドネシア)に赴き動向調査に従事した。さらに、タミル映画をめぐって新しい動き(スリランカ系タミル人によるタミル映画の制作再開)を見せているスリランカ・コロンボで、当該作品を観賞するとともに、オーディエンスにインタビューをおこなった。 2017年6月に東北大学において研究会を開き、山下がパワーポイントや配付資料をもとにインド映画の新傾向につき発表をおこなうとともに、20人ほどを集めて上映会を開き、インド映画の従来のフォーマットからの脱却と近作のコンテンツの特徴などについて来場の研究者や学生・院生らと意見交換およびアンケート調査をおこなった。 発表した論文としては、2017年4月に発表された「インド映画が映しだす現代インドの社会と宗教―最近のトレンドを中心に」(『現代インド・フォーラム』2017年春季号No.33、公益財団法人日印協会、3-14頁)にとどまるが、最終年度の成果発表に向けた新資料が多く収集し得たと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、映画作品の内容(コンテンツ)の分析に加え、インド映画ないし映画界を取り巻く市場やオーディエンスの動向を捉えることが必須となる。資料調査と現地調査が両輪にならなければならない。その意味で本研究計画は、開始2年を経た今、一定の成果を得つつあると考えてよい。 もっとも、インド映画の新局面の精細な考察には、インド国内のみならず、地殻変動の震源の一つである国外マーケットの動向分析が大きなポイントとなる。これまで東南アジアとヨーロッパのインド移民社会でのインド娯楽映画受容につき数カ国を訪れて調査をおこなってきたが、新しい動きを牽引している一つと言うべき北米、とくに多くの新移民人口をかかえるアメリカ合衆国での動向調査が不十分なままにとどまっている。最終年度でこの部分をいかに克服し得るかが全体の成否の鍵を握ることになるであろう。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は最終年度に当たるため、これまでの成果をいかなる媒体で、いかなる形態で、さらにいかほどまで公開するかを見極めつつ、最終年度の研究・調査に従事することになる。昨年度同様、比較的早い時期に学内で研究会を開催して意見交換を図るとともに、その成果をも踏まえて最終年度の研究計画を策定するが、詳細にコンテンツ分析を施す作品を同定することが先決となる。その作品に対する批評の動向も重要な道具となるので、公開時期を見極めてインドに渡航し、新聞等メディア上の言説を丹念に拾い上げる作業をおこなう。 上記のようなアメリカ合衆国の動向調査は一定の予算枠を要するため、本研究計画による渡航は難しく、なんらかの手段を講じて実施する方策を検討したい。
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