2017 Fiscal Year Research-status Report
映画が辿る認知症介護の45年間 1973~2017
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16K13174
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
今泉 容子 筑波大学, 人文社会系, 教授 (40151667)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 日本映画 / 外国映画 / 認知症 / 患者 / 介護者 / 高齢者 / 映画研究 / 老年学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究が対象とするのは「認知症映画」であり、映画が描き出してきた認知症介護のありかたを解明することが目的である。この目的が達成されれば、「映画研究」が「老年学」という学際的領域に貢献しうることが示されるはずである。 認知症をテーマにした映画は、増大しつつある。「認知症映画」は1973年に日本で制作された『恍惚の人』が、世界初の例である。しかし、日本映画が辿る認知症の変遷を本格的に研究した例は、まだ存在しない。本研究の第一の目的は、認知症患者の介護をめぐる家族像・社会像の変遷に注目しながら、「認知症介護映像表象史」を構築することである。第二の目的は、2000年代に興隆した「外国」の認知症映画に目を向け、日本と外国の認知症介護映像表象史を比較考察することである。 これら二つの目的のうち、第一の目的は前年度に達成できている。すなわち、日本映画を考察対象として認知症介護映像表象史を構築することは、完成できている。その表象史は三段階からなり、初期の1970~80年代、中期の1980年代後半~2000年代初め、後期の2000年代以降、という区分を想定したものである。患者像と介護者像には、男の役割と女の役割が明白に異なっていることが明らかになり、興味深い表象史が浮き彫りになった。 第二の目的は、構築した日本の認知症介護映像表象史が、外国映画における認知症映画の事情に適応できるかどうかを見極めるため、日本と外国の認知症映画の比較考察を行うことであったが、この目的は9割が達成できた段階である。欧米映画に関しては日本の表象史と大きな差があることを突き止めた。しかし、日本の状況にもっとも近いことが明らかになった中国映画の事情は、調査を継続している最中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初予定していた計画の9割は完成している。日本における認知症介護の映像表象史は完成している。認知症映画の先進国として、諸外国より30年も前に認知症をテーマとした映画制作に着手した日本の認知症映画の表象史が明らかにできた。 しかし、諸外国のなかで中国における認知症映画の事情だけが、ほかの外国映画の事情とは異なって、日本の映像表象史に近い様相を示していることが明らかになったため、その理由を調査する必要が生じた。理由は、まだ解明できていない。なぜ、中国映画における認知症の描写は、ほかのアジアや欧米の国々の認知症映画とよりも早く開始され、日本に近い映像史をもつようになったのか。その点が解明されなければ、認知症映画における日本の独自性が証明できないため、中国映画に関するさらなる調査が必要になっている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、考察中の中国映画における認知症介護の表象を明らかにして、すでに完成させた日本映画における介護表象史との比較を行う予定である。それによって日本映画の認知症介護の描写の独自性が明らかにできるはずである。 1973年に認知症映画で先陣を切った日本は、2000年代になってやっと本格的な作品を制作しはじめた諸外国とは明らかに異なる介護表象の履歴をもつことが、現時点で明らかになっている。とくに欧米映画においては、今日でこそ『アイリス』(2001、イギリス)、『アウェイ・フロム・ハー』(2004、カナダ)、『やさしい嘘と贈り物』(2008、アメリカ)、『カルテット』(2012、イギリス)、『アリスのままで』(2015、アメリカ)などの認知症映画を産出しているが、2000年代に入るまでは、認知症は映画に描かれることはなかった。日本映画と欧米映画の大きな差は、認知症をテーマにして考察するかぎり、歴然としていると言える。 しかし、認知症映画の制作を2000年代になってから開始したはずの諸外国のなかで、中国だけが1995年という早い時期に認知症映画『女人、四十』(アン・ホイ監督)を制作したことがひっかかっており、中国の認知症映画の状況がまだ完全に把握しきれていない。日本の認知症映像表象史に近い映画制作の歴史をもつ中国は、ひょっとしたら早期の認知症映画制作に関与したアン・ホイ監督が、日本人を母に持ち、『恍惚の人』の公開時に来日していたことと関係があるのかもしれない。また、満鉄映画という独特な映画史をもつことによって、日本映画との共通性が生まれたのかもしれない。こうした中国の認知症映画の事情をさらに深く調査する必要が認められたため、中国映画に焦点をあてて研究を完成させる計画である。
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Causes of Carryover |
上述のごとく、中国映画における認知症介護の表象史に関する1つの疑問を解決するため、現地(中国)への調査をはじめ、中国映画に特化したさらなる考察を実施する必要が生じた。そのため意図的に約10万円(正確には11万3,897円)の研究費を次年度に使用できるように、研究費使用の調整を図った。この約10万円の使用によって、研究計画を完結させる予定である。
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Research Products
(1 results)