2016 Fiscal Year Research-status Report
近代日本画修理における絵具層の鱗片状の浮き上がり接着方法と修理理念について
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16K13179
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
梁取 文吾 東京藝術大学, 学内共同利用施設等, 助手 (60761385)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 日本画 / 修理 / 厚塗り / ひび割れ |
Outline of Annual Research Achievements |
現在までの研究では、主に日本画の修理工房や美術館、博物館への視察や、専門家からの聞き取り調査を行った。そこで近現代の日本画作品に起こっている損傷の具体例や、その修理方法を多数調査することができた。その中で確認できたのは、昭和30年以降の日本画の多くは厚塗りの彩色が施され、その絵具層がひび割れを起こしているパターンが多い事だった。具体的には長い年月で膠が枯れて割れているもの、絵の表面の膠分が強すぎて絵具が紙から剥離しているもの、支持体である紙や絹と絵具のバランスが崩たことで浮きが生じているものなど、事例も様々だった。そのような事例に対しての修理はその都度、症状に適合する方法が考え出され、通り一遍の方法で対処することは困難であるということも分かった。本研究では近現代日本画の新しい修理技法と理念の確立を目的としているが、先ほどのような事例を知るたびに、画一化した技法を提案することが果たして諸問題の解決につながるのか疑問が残った。 聞き取り調査の中で、膠と絵具との混ぜ具合、塗り重ね方、乾燥のさせ方などの画家の描法も将来絵具が割れるかどうかに大きく影響することがわかってきた。このことから、今後より良い修復環境を作るためには、画家側の立場からも本研究を考える必要があることを再認識できた。 また、日本画の源流にあたるシルクロードの壁画の中で、中国敦煌莫高窟への視察調査も行った。敦煌の壁画は随時修復が行われていて、資料館では修理に使われる工具や方法などを知ることができた。もちろん壁画と日本画という違いはあるが、同じように鉱物や土を絵具に用いていること、厚い絵具層を支持体に定着させていることなど共通点が多く、その修復技法を知ることは今後の研究のため大いに参考になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
調査に関しては、さまざまな日本画作品や修理事例を調査する中で、早い段階から浮き上がりサンプル製作に取りかかる事に疑問が残り、初年度は現場での調査を中心とした研究に切り替えた。その結果、本研究のサンプル実験の部分はまだあまり進んでいないため進捗状況の区分を(3)とした。しかしながら、初年度での調査をへて本研究で行う実験の方向性が確認できたので、次年度より絵具や支持体の材料の購入とサンプル実験に取り組む予定である。具体的には,絵具層の鱗片状の浮き上がりを止める実験に終始するだけでなく、どう塗るとどう割れるのか、支持体と絵具と膠のより良い関係性について、など、画家側の立場からのサンプル実験も行いたいと考える。 また並行して引き続き調査と修理品の調達を進めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度でおこなった修理に関する情報収集をもとに、実際にサンプルをつくり、亀裂や浮き上がりが起こる原因とその対処法を調べる。その中で絵具と膠と支持体のより良い関係性を探求する。 並行して今後も修理工房や美術館、博物館の視察、専門家への聞き取り調査を継続する。 最終年度に向けて修理品の調達準備をする。
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Causes of Carryover |
初年度は修理工房や美術館、博物館などへの現地調査を優先し、機材や絵具などの備品・消耗品等の購入を次年度に先送りしたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は機材や修理用具、サンプル実験のための材料の購入を予定している。また引き続き、現地調査での旅費や謝金を計画している。
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