2017 Fiscal Year Research-status Report
世界諸地域の大衆音楽における「日本」表象の関係史的研究
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16K13183
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
輪島 裕介 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (50609500)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 大衆音楽 / トランスナショナリズム / 間アジア文化研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、4月から9月まで台湾大学音楽学研究所に滞在して、主に日本統治終了後の台湾における日本の大衆音楽の影響と、近年における双方向的な影響関係について研究を深めた。具体的には、1)1950-60年代の日本曲台語歌謡についての研究、2)1960年代の台湾・日本・韓国・香港・タイで活躍した映画俳優・歌手の林沖氏の聞き取り調査、3)近年の「インディ」音楽シーンにおける「シティ・ポップ」(1970-80年代のある種の日本の大衆音楽を指す新たな用語)の流行と日本への「逆輸入」に関する調査、4)近年勃興している台湾のカーニバル文化とそこにおける日本の演奏団体についての調査である。1、2については新聞コラム寄稿や横浜国大での研究会での報告を行った。3については『ユリイカ』誌に論考を寄稿し、既に繁体字中国語訳がオンライン公刊されている。4については、2018年6月に北京で開催される国際学会で発表する予定である。 さらに、従来から行ってきた、フィリピン由来とされるオフ・ビート・チャチャというダンス音楽(日本では「ドドンパ」と呼ばれた)の環太平洋的な拡散について、台湾大学で講演し、国際ポピュラー音楽学会、アメリカ民族音楽学会で発表した。セルビアで「ワールドミュージック」概念に関する国際比較のラウンドテーブルを開催し、クロアチアではディスコ音楽の国際比較に関する論文集の出版打ち合わせを行った(2020年英国で刊行予定)。台北で、コロンビア大学助教授ケヴィン・フェレス氏を招いたワークショップを開催した。 演歌に関する旧著の英訳をきっかけに、国際的な観点から演歌を再検討するシンポジウムを日本音楽学会で企画し、日本ポピュラー音楽学会では、全国大会の全体シンポジウムにおいて、日本の大衆音楽史観の形成にかかわる報告を行い、その知見を取り入れた論考を『ユリイカ』誌に寄稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国外での講演、イベント開催、有力な国際学会での発表を多く行い、世界各地の研究者と議論を交わすことができた。特に、台湾滞在中は、インターアジアポピュラー音楽研究グループの代表である台湾の何東洪氏(輔仁大学副教授)と日常的に議論を交わす良好な関係を築くことができた。何氏とは、昨年、本研究課題の主催イベントで招聘したコロンビア大学助教授のケヴィン・フェレス氏を招いた合同ワークショップを共催するなど、本研究課題の重要な目的である国際的研究ネットワークの形成に関して十分な進展をみることができた。特に、何氏が主導的な立場にあるアジア地域の研究者を中心とするインターアジアポピュラー音楽研究グループと、フェレス氏が深く関与しているアジア系アメリカ音楽研究の文脈を架橋したことは、大衆音楽研究の世界的な研究動向において、きわめて重要な実績といえる。 また、中東欧地域の「ワールドミュージック」の研究・実践における気鋭の研究者であるイヴァ・ネニッチ氏(セルビア・ベオグラード音楽院准教授)とラウンドテーブルを企画し、これも継続的な企画となる計画がある。次年度以降の国際的な研究活動の予定も着々と進行しつつある。 一方、そうしたネットワーキングによって得られた知見を、日本における口頭発表や出版にフィードバックすることもできた。台湾における日本の「シティ・ポップ」の流行や、セルビアでのラウンドテーブルにヒントを得て執筆した論考「日本ポップの自意識とエキゾティシズムの行方」は、日本の一般雑誌のために書かれたものだが、台湾大学の大学院生によって翻訳されオンライン公刊された。英語を媒介とした国際的な最先端研究を進めるのみならず、それを日本国内の幅広い読者向けに紹介し、さらに、それが他言語に翻訳・紹介される、という循環的な回路を確立しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
挑戦的萌芽研究の最終年度として、計画に従って研究を遂行するとともに、本課題によって得られた萌芽的な知見や研究ネットワークに基づき、より具体的かつ大規模に展開するための研究計画を立案する。 本課題立案時には予定していなかった英語論文集への寄稿依頼が2件あり(ディスコ音楽の国際比較及び日本のアニメ音楽の世界的受容に関する研究)、これを研究課題の中に組み込む必要がある。また、本課題の遂行を通じて親交を深めた日本内外の研究者の寄稿による、トランスナショナルな視点からの日本の大衆音楽史の批判的読み直しに関する論文集を企画しており、これも本課題及びそれを引き継ぐ研究課題の中心的な仕事となるだろう。
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Research Products
(11 results)