2016 Fiscal Year Research-status Report
近代「地域」の記述と『平家物語』の「記憶」をめぐる研究―史蹟紀行・郷土史を対象に
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16K13191
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
久保 勇 千葉大学, 大学院人文社会科学研究科, 助教 (10323437)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 地方史 / 軍記 / 観光 / 郷土史 / 平家物語 / 屋島 / 北陸 / 房総 |
Outline of Annual Research Achievements |
明治中頃からの紀行文・史蹟案内の出版が増加し,さらに明治末頃から各地で「郷土史」編纂事業が活発に推進されていく。このような地域に関わる著作に,『平家物語』等の軍記作品の「記憶」がどのように描き込まれたか,この実態を調査研究するのが本研究である。当該研究の推進により,近代の地域文化活動において文学作品が果たした役割が明らかになると同時に,今日における地域の諸課題に有益な視点がもたらされることが企図されている。 初年度は,1)全国規模に展開した「史蹟・名勝」に関する文献の把握,2)北陸合戦・屋島合戦にかかる地域の記述,3)房総地域における軍記の「記憶」に関する基礎的研究を実践した。1)については,野崎左文ほか『日本名勝地誌』(博文館1893~1901),熊田葦城『日本史蹟』(昭文堂1908~1910),妹尾薇谷『日本史蹟文庫』(岡田文祥堂ほか1913)等を検討した。殊に後二著は軍記に関わる史蹟について,その本文を換骨奪胎した文章を以て表現しており,軍記の記憶が本文を離れ,史話の如き方法を以て書記されていく変化を捉えることが出来た。(両著者が新聞記者の経歴を有することにも注目)2)の屋島については森田惣吉(教育者・自治体首長)・岡田唯吉(教育者・歴史研究者)の二氏が,北陸については平野良作(教育者)が注目された。両地に共通して発見された問題は,地域が中央や他の地域と相対化される契機により,「地域の記憶」が表出するという現象である。具体的な大きな契機とは「行啓記念事業」であり,いま一つは「共進会開催」である。3)の房総地域については,当該研究の成果を地域文化活動に繋げる準備ができている。(千葉市との連携活動を次年度より本格化)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は3つの柱となる研究活動を計画しており,進捗状況についてそれぞれ以下に記す。 1)調査活動(文献・実地踏査)->屋島,北陸については各1回の調査によって一定の成果を得ることが出来たが,日程確保の問題により詳細なデータの収集等が未だ不十分なところがある。ただし,実績にも記したように対象地域に共通する問題(天皇巡幸や行啓記念事業,共進会開催などの経済活動)に見通しが得られたことは大きい。 2)調査データ集積(主として著作権保護期間満了の資料)->これについては,対象資料の閲覧は済ませているが,デジタルデータ化が未了である。次年度早々に着手する。 3)成果報告活動(次年度の報告活動へ向けた準備,研究交流)->本年度は次年度へ向けた当該研究の成果を「地域」に還元するための自治体との調整・準備を計画していた。千葉市との間で調整作業(打合せ)を複数回行い,次年度成果報告をおこなう機会を得ることが出来ている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画書および前年度の進捗状況を踏まえ,以下のように研究を推進していく。 1)調査活動->屋島・北陸地域については,前年度の計画回数が実施できなかったため,調査日数を確保したうえで,詳細な調査活動を実施する。 ② 調査データ集積 (本格的な編集作業および完成)->対象資料のデジタルデータ化がやや遅れているため,その作業を早期に推進していく。 ③ 成果報告活動 (成果のとりまとめおよび発表)-> 千葉市における成果報告の機会を都市アイデンティティ推進事業(千葉市総合政策局総合政策部政策調整課)にかかる場で確保している(来年1月もしくは2月)ので,それに向けた準備をおこなう。うえの調査活動(北陸・屋島)において,同様の機会が得られるか調査の折に模索していく。
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Causes of Carryover |
進捗状況において既述の通り,計画していた調査活動(旅費)の回数の実施が出来なかったこと,資料データのデジタル化にかかる作業が未了であることによって次年度使用額が生じている。一方,成果報告にかかる準備作業(地域自治体との連携活動)は当初の計画よりも進んでいる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
「物品費」の前年度残はそのまま本年度予定額100千円と合算し,文献購入費用等としてとして使用する。「旅費」の前年度残も同様に,本年度予定額200千円と合算し,調査旅費として使用する。「人件費・謝金」の前年度残については,「その他」経費の前年度残および本年度予定額200千円に合算して,成果報告にかかる諸経費として使用する。
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