2017 Fiscal Year Research-status Report
南米を旅した作家たちの軌跡と作品の研究 相互交流の観点から
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16K13193
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
杉山 欣也 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (90547077)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 島崎藤村 / 三島由紀夫 / ブラジル / 日本文学 / 紀行文 / ブラジル日系文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度は、2016年度のブラジル滞在において入手した資料や知見を元に、研究の目的として掲げている「日本ーブラジル日系社会の相互交流史としての文学研究」を意識して研究を進めた。 2017年度、主軸に据えたのは島崎藤村である。2016年度まで集中して取り組んでいた三島由紀夫は、戦後に単独で旅行し、移民社会との交流を記さなかったという特徴があるが、これに対して島崎藤村は、戦前に日本ペンクラブの代表として旅行し、移民社会との交流を「巡礼」ほかの紀行文に多く書き遺しているなど、多くの点において対照的な存在である。両者の振幅を意識することで、これから進めていく他の作家たちの活動の分析において必要な座標軸を得た。また、「相互交流」の観点から大切となるのは現地日系社会の歴史や文化・芸術活動についての考察であるが、この点についてもブラジル滞在時に入手した多くの資料を分析し、ブラジル日系文学についての知見を蓄えつつ、それらを主要な研究である南米を旅した作家の文学的軌跡にフィードバックさせる作業を行っている。 こうした研究の成果として、国際学会招待講演を含む学会発表3本と国際学会誌論文1本、海外(イタリア)での共著1冊(単独論文1本を発表)を行った。また、ブラジルで入手した日系文学作品を紹介するため、講演+朗読の集いを3回開催し、研究内容の一端を市民社会へ還元することができた。その内容について新聞で報道されたことをきっかけに、石川県からのブラジル移民に関する移民会社の遺した名簿という、貴重な研究資料が一般市民より寄贈された。移民研究の専門家である根川幸男氏(国際日本文化研究センター)の協力を仰ぎ、その分析を行ったところ、それもまた新聞報道がなされた。その意味では研究と一般市民社会との「相互交流」もまた行うことができ、充実した実りの一年であったと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の主な研究対象である島崎藤村と従来の研究対象である三島由紀夫、そしてその「相互交流」の対象であるブラジル日系文学のそれぞれについて、国際シンポジウムの招待講演を含む学会発表3本と国際学会誌論文1本、海外(イタリア)での共著1冊(単独論文1本を発表)を行った。また、ブラジルで読まれている日系文学の存在とその内容をより広く知ってもらうために、講演+朗読のワークショップを3回開催し、一般市民への交流を行うことができた。また、その活動を通して新しい資料の提供を受けた。これらの活動を通じて、当初の計画を超えて研究を発展させることができたといえる。 一方、インプット面においては、不慣れな移民研究をも視野に入れて研究活動を行う必要が生じたため、従来のペースより遅くなっている部分もある。その点についてはブラジル移民史の専門家に協力を申し入れ、本科研費で共同調査を実施するなどして補っているところである。 今後は、移民史に関する共同的な研究を同時並行で推進していくことで、予定終了年度である2018年度中に一定の成果を得る予定である。 これらの事情から(2)として自己評価を下した。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度は、「進捗状況」に記した移民史研究者との交流を契機として、8月にブラジルで開催される国際学会でパネル発表を行うことが一つの目標である。その際には「日本人の海洋体験」というテーマを設定し、移民史・外交史の専門家とともに発表を行うが、その際に島崎藤村の南米行きに関する分析を発表し、他研究領域との「相互交流」によって研究を深化させたい。またそのブラジル滞在を利用して、現地の諸団体とともに、日本文化・文学を紹介するイベントを企画している。それらの活動を通して得た知見については、国際学会誌への投稿を行い、成果として還元する予定である。 また、南米を旅した日本作家との相互交流の相手であるブラジル日系文学の担い手たちに関する研究については、すでにある学会から慫慂を受けて論文を発表する予定である。これらを通じて、研究対象の「相互交流」の軌跡を分析するだけではなく、本研究課題そのものの日本ーブラジル、あるいは学界ー市民社会の「相互交流」を意識しつつ活動を行い、その後に企画している著書刊行への準備としたい。
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Causes of Carryover |
科研費で実施する予定だった2017年度のブラジル訪問が国際シンポジウムにおける招待講演によるものとなったため、飛行機代などの旅費の多くと、通訳等に予定していた謝金が不要となったことが大きい。そのぶんを物品費(ことに書籍)の購入に当てることで別方向からの研究の推進を行なったが、上記の余剰が出た。2018年度の調査をより大規模なものにすることに使用する計画である。
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[Book] Italia e Giappone a confronto: cultura, psicologia, arti2017
Author(s)
Stefano U. Baldassarri,Raoul Bruni,Edoardo Gerlini,Morihisa Ishiguro,Haruyuki Kojima,Michele Monserrati,Francesco Morena,Shunsuke Shirahata,Kin’ya Sugiyama,Manila Vannucci,Francesco Vossilla
Total Pages
270
Publisher
Angelo Pontecorboli Editore - Firenze
ISBN
978-88-99695-67-5