2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K13194
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
高橋 徹 信州大学, 学術研究院医学系(医学部附属病院), 講師 (70313856)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 双極性障害 / 躁うつ病 / どくとるマンボウ航海記 / 辻邦生 / 往復書簡 / 病跡学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度に投稿した第一報の原著論文「作家・北杜夫と躁鬱病 ―双極性障害の診断―」は、1回の査読の後、平成29年7月に受理され、平成30年6月の病跡学雑誌に掲載予定となっている。(5月9日現在、掲載前の校正段階)。第二報として「作家・北杜夫と躁鬱病 ― 『どくとるマンボウ航海記』における「心的エネルギー」論 ―」を平成29年10月に投稿し、平成30年2月に第一回査読結果の通知(要修正)があり、現在、再投稿の準備段階にある。 第二報論文の抄録内容は以下。 「作家・北杜夫(1927-2011年)の双極性障害は、39歳時の躁病エピソードが初発とされているが、それ以前の時期にも、気分変動が存在していた可能性がある。本論では、この顕在発症前の時期に焦点をあて、その精神状態と創作との関連性を考察した。辻邦生との往復書簡集を主な資料として、『どくとるマンボウ航海記』執筆前後の1959-1960年(32-33歳)頃の精神状態を推察した。この時期には既に、躁状態や抑うつ状態もしくは混合状態を呈していた可能性が高く、これらの精神状態が初期作品の創作に大きく関与しているものと考えらえた。「心的エネルギー」の観点から、『どくとるマンボウ航海記』の創作過程を考察し、心的エネルギーのベクトルが上昇に転じる「うつ病相の後期」が、執筆活動には適した時期であった可能性を指摘した。また同作品が、それまでの文壇にはなかった独自性と新規性を有していることにも言及した。」 具体的には、『若き日の友情 辻邦生・北杜夫往復書簡』の内容を詳細に検討し、特に北杜夫が『どくとるマンボウ航海記』を執筆した前後の時期に記した書簡内容から、当時の北の精神状態を推定し、その気分変動が同作の執筆に大きく関与していた可能性を考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度に投稿した第一報原著論文が平成29年度に受理され、平成30年に掲載予定(日本病跡学会誌95号)となっている。また第一報の内容を踏まえて、第二報原著論文を平成29年度に投稿し、既に査読を受け、再投稿の準備段階に入っている。 これらは北杜夫の病跡学研究における初の本格的学術論文・原著論文であり、その端緒を論文掲載という具体的な結果として開けた意義は大きい。また精神医学と人文学の領域横断を試みた点においても、「挑戦的萌芽研究」として大きな意義を持つと考える。 第三報「作家・北杜夫と躁鬱病 ― 初期作品の系譜 ―」、第四報「作家・北杜夫と躁鬱病 ― 北杜夫をめぐる人びと ―」も概ね初稿版の完成段階にあり、第二報が受理され次第、投稿していく予定である。 また第五報論文として、「北杜夫『狂詩』― 創作の原点 ―」の作成を開始している。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは第二報の原著論文「作家・北杜夫と躁鬱病 ― 『どくとるマンボウ航海記』における「心的エネルギー」論 ―」(再投稿時には、副題を改変の予定)を再投稿し、受理・掲載を目指す。さらに以下の表題で二編の原著論文(第三報・第四報)を、随時、投稿していく。 「作家・北杜夫と躁鬱病 ― 初期作品の系譜 ―」〈抄録〉北杜夫は、純文学、大河小説、旅行記・随筆、ユーモア小説、評伝など、多彩なジャンルの代表作をもつ。本論では、これら主要な作品群を、おおまかに「自伝的小説」「異国小説」「エッセイ」「ユーモア小説」に分類した。この4つのジャンルの作品は、双極性障害が顕在発症した39歳以前に、それぞれ初期作品が創作されており、作家としての長いキャリアの萌芽は、作家活動の初期には確立されていたと考えられた。また各領域が相互に影響を及ぼすことで新たな創作につながったと考えられた。 「作家・北杜夫と躁鬱病 ― 北杜夫をめぐる人びと ―」〈抄録〉北杜夫に影響を与えた人物を、創作における環境要因の観点から考察した。まず北杜夫の人生を大きく10期にわけ、その時代ごとに関わりのあった主要人物を、創作の観点から概説した。創造性に関与する環境要因として、「工房的組織」と「パトロン的支援」という観点で考察した。主要な「工房的組織」として「松本高校」「文芸首都」「文学界」「慶應大学」を、「パトロン的支援」として「中央公論社」「新潮社」「家族・親族」「慶應大学」などをあげた。さらに創作者として活躍した時代背景や、文芸評論家・奥野健男の「プロデューサー」としての位置付け等についても言及した。北作品のベストセラーが続いた時代は、日本の高度経済成長期と重なっており、「経済的な繁栄」も新規的文化が醸成されるための環境を整えたと考えらえた。
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Causes of Carryover |
(理由)ほぼ99%を使用。想定よりも物品購入が安価に済んだため、残額が生じた。1288円が残となったため、次年度にまわした。 (使用計画)次年度使用額は平成30年度請求額と合わせて消耗品費として使用する予定である。
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