2017 Fiscal Year Research-status Report
ウィリアム・ブレイクと英国社会主義思想――職人による伝承と伝播
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16K13199
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐藤 光 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (80296011)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 比較文学 / 英文学 / ウィリアム・ブレイク / 武者小路実篤 / 白樺派 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度の調査で、ウォルター・クレインの人脈の中に、英国社会主義思想史で重要な役割を果たしたと思われる人物が含まれることが判明した。この人物がウィリアム・ブレイクの詩に関心を寄せていたことも確認することができた。平成29年度は、前年度の調査結果を踏まえて、この人物の活動に焦点を絞り、ロンドンの大英図書館で、20世紀初頭に刊行された社会主義に関する諸雑誌をマイクロフィルムで調査した。この人物が編集責任者を務めたある雑誌において、ある時期に集中してウィリアム・ブレイクの詩が掲載されていることを発見した。 さらに、同じ雑誌の同じ時期に、武者小路実篤が宮崎県に設立した「新しき村」に関する情報が、複数回にわたり掲載されていることを発見した。これは想定外の発見であり、武者小路実篤とブレイクにそもそも接点があったのかどうかを確認する作業を、『武者小路実篤全集』全18巻を通読することによって行った。結果として、武者小路は、1913年7月から1969年3月まで、およそ55年にわたって、174箇所でブレイクに言及しており、蚊取り線香の煙のように細々とブレイクに対する関心が持続したことがわかった。武者小路はブレイクにどのようにして出会い、なぜ興味を持ち、どのように受けとめたのか。本多秋五が白樺派の文学と藝術受容の特徴を示す鍵言葉として提出した「跨ぎ」の問題、或いは武者小路辰子の言葉を借りれば、「技術的展開や史的な段階を考慮しないという批判」に留意しながら、武者小路によるブレイク理解の実態を明らかにする作業を行った。この予想外の調査結果の詳細については、拙論「武者小路実篤とウィリアム・ブレイク――共生と競争の狭間で」(『超域文化科学紀要』22号)を参照されたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
英国社会主義思想史の水脈をたどる中で、ブレイクと武者小路実篤との接点を発見したのが何よりも大きな収穫である。従来のブレイク研究でも、武者小路実篤研究でも、この事実は知られていなかった。また、本研究計画で当初想定した方向にも含まれていなかった。これは、まったく想定外の発見であるが、想定外の発見があればこその挑戦的萌芽研究と言える。 次の課題として、どのようにしてブレイクの詩と武者小路実篤の「新しき村」に関する記事が、英国で刊行された社会主義系の雑誌に掲載されたのか、その情報源、或いは情報伝達経路は何か、という問題が見えてきている。
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Strategy for Future Research Activity |
当該雑誌にブレイクと「新しき村」が共存した事情を見極めたい。当該雑誌創刊当時に遡って、ブレイク、或いはイギリス・ロマン派の詩人に関する記事の有無、日本に関する記事の有無を確認し、関連する記事については、それらが掲載された歴史的文脈と記事の内容との関連を考察する。 なお、現段階では、当該雑誌という表現を使用し、雑誌名と編集責任者名を本欄に記述することを控える。人文学においては、調査結果を論文として公表して初めて、いわば新案特許を取得したことになるので、論文として公表した後に、本研究結果の詳細を記述したい。
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Causes of Carryover |
平成29年度末に英国に出張し、大英図書館で引き続きマイクロフィルムの調査を行った。本来は10日以上滞在したかったのだが、校務の関係で7日間に短縮せざるを得ず、次年度使用金が発生した。この金額は平成30年度受領予定額と合算して、大英図書館での調査費用に充当する。
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Research Products
(1 results)