2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K13203
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
外山 健二 山口大学, 人文学部, 准教授 (80613025)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アメリカ文学 / イスラーム / 文学史 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年5月に、論文「モハメド・ショークリ『パンのためだけに』を読む――ポール・ボウルズの〈翻訳〉と21世紀英語文学の可能性」20世紀英文学研究会編『21世紀の英語文学』(金星堂)を出版した。平成29年12月には、山口大学紀要『英語と英米文学』第52号に論文「なぜ、スレイドは医者なのか――『世界の真上で』における〈新しきもの〉」が収録され、平成30年3月には、山口大学人文学部紀要『異文化研究』第12号に論文"Islam in American Literature: First Report"が収録されている。これらの論文では、〈翻訳文学〉と世界文学の地平を拡大し、その視野からイスラームという新たな視点を導入する学問分野の可能性を追究している。 研究発表では、平成29年5月に、日本中東学会年第33回年次大会(九州大学)において、19世紀アメリカの作家ナサニエル・ホーソーンの短編「優しい少年」とイスラームを主に「アメリカ文学のイスラーム――第一次報告」として研究発表を行っている。同年10月には、日本アメリカ文学会第56回全国大会(鹿児島大学)において、「第一次報告」を踏まえホーソーンとイスラームの議論を充実させ、また20世紀アメリカの作家ヘミングウェイの長編『アフリカの緑丘』とイスラームを「アメリカ文学のイスラーム――第二次報告」として行っている。 イスラームの視点から、これまでのアメリカ文学史の検証も行っている。代表的なアメリカ文学史であるSecovan Bercovitchの The Cambridge History of American Literatureを見ても、アメリカ文学という学問の境界の見直し、再定義によるキャノン(正典)の方向性を打ち出しているが、イスラームの視点が欠如しているため、アメリカ文学史の再構築の段階である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
論文「モハメド・ショークリ『パンのためだけに』を読む――ポール・ボウルズの〈翻訳〉と21世紀英語文学の可能性」20世紀英文学研究会編『21世紀の英語文学』(金星堂)収録を出版(平成29年5月)した。その成果として、アメリカ文学から世界文学へという視点で〈翻訳文学〉を検討し、そこからイスラームの問題を浮き彫りにできた点がある。 このような研究過程で、山口大学人文学部紀要『異文化研究』第12号に論文"Islam in American Literature: First Literature"によるホーソーン「優しい少年」やヘミングウェイ『アフリカの緑丘』のイスラーム分析等を通して、イスラームの視点でアメリカ文学史構築への基礎を形成しつつある点も挙げられる。 これまでのアメリカ文学史のあり方等をめぐって調査し、アメリカ文学史を代表するSecovan Bercovitch編の The Cambridge History of American Literatureでは、21世紀を見据えた新たなアメリカ文学の生成を目指すと言え、アメリカ文学という学問の境界の見直し、再定義によるキャノンの方向性で、非白人や、ヘテロセクシュアルではない諸要素をアメリカ文学に取り入れようとしている。新しいジャンル、新しい意味等が生み出される可能性があるが、イスラームの諸要素が看過されている。 アメリカにおけるイスラーム認識の歴史的・文化的背景をまとめるためにも、文学言説を対象とする分析のみならず、サミュエル・P・ハッチンソンの『文明の衝突』等の分析等によっても、従来のアメリカ文学史研究におけるイスラーム看過の傾向を理解しようと努めた点もある。
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Strategy for Future Research Activity |
アメリカ文学のイスラームという研究テーマのもと、新たなアメリカ文学史をイスラームの視点で構築することが研究の推進方策としてまず挙げられる。アメリカ文学の各作品のイスラーム分析を共時的にまとめつつ、その分析を通時的に明示することで、個別的な作品分析と文学史という包括的な枠組みから、新しい文学史構築のみならず、新しい方法論や横断的な学術的研究に寄与できるよう研究を推進することが肝要となる。 旅行記作家としてのマーク・トウェイン『地中海遊覧記』をあげれば、エルサレムに着くと、トウェインが最初に訪れたのは、キリストが処刑された丘の上にたつ聖墳墓教会でその際に、新しい文学史構築では、イスラームをどのように捉え、そしてその記述の方法を、どのような原理・原則によってすべきかという問題を明示することが根本問題ともなる。ある。そこを出た後、トウェインはエルサレムの旧市街を歩く。そこでトウェインが出会うのは、ムハンマドが昇天した場所として知られるイスラームの建築物「岩のドーム」(エルサレムの神殿)である。また、ハーマン・メルヴィル『白鯨』でのエイハブ船長は「シャハーダ」をよく模倣する。シャハーダとは、イスラーム入信における信仰告白である。 このようなイスラーム記述を詳細に吟味し、新しいアメリカ文学史構築では、イスラームをどのように捉え、そしてその記述の方法を、どのような原理・原則によってすべきかという問題を明示することが根本問題ともなる。これは、アメリカとイスラームの諸関係を、特にアメリカ文学とイスラームという視点で捉え直す契機にもなる。このような研究方法を取りながら、従来のアメリカ文学やアメリカ文学史研究の課題や論点等を再整理し、そこから問題点を明示することで、その問題点を解決できるよう研究を推進予定である。
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Causes of Carryover |
物品費や旅費において、当初の見込み額と差額が生じたため。同時に、その差額を、当該年度内に使用するよりは、次年度に使用したほうが研究上有効であると判断したため。物品費や旅費として使用を計画している。
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Research Products
(5 results)