2016 Fiscal Year Research-status Report
西欧古代と中世の文学史における連結点としてラテン語詩人クラウディアヌス
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16K13211
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
宮城 徳也 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (90278789)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | クラウディアヌス / 叙事詩 / 祝婚歌 / ラテン文学 / プロセルピナの略奪 / セネカ |
Outline of Annual Research Achievements |
叙事詩的作品『プロセルピナの略奪』の読解とその先行研究の批判的検討を行ない,その際、現行の2冊の注釈書、J. B. Hall, ed., Claudian: De Raptu Proserpinae, Cambridge at the University Press, 1969 / Claire Gruzelier, ed., Claudian: De Raptu Proserpinae, Oxford: Clarendon Press, 1993を再検討し、プラトナウアーの英訳、シャプレの仏訳と注解、セルパの伊訳と注解を参考にした。『プロセルピナの略奪』を神話を題材にした叙事詩の伝統の中に位置付け、Catherine Wareが、Claudian and the Roman Epic Tradition, Oxford University Pressが強調したウェルギリウス『アエネイス』との関係を確認しながらも、オウィディウス『変身物語』の影響がより濃厚で、重厚な叙事詩に娯楽性を持たせた作品であることを明らかにする準備が整った。一方、業績として1.「セネカの悲劇『メデア』の第一合唱隊歌と祝婚歌の伝統」、WASEDA RILAS JOURNAL、 No.4(早稲田大学総合人文科学研究センター)、pp.169-181、 2016/2.「クラウディウス・クラウディアヌス『パッラディウスとケレリナの祝婚歌』 牧歌的ヴィジョンをめぐって」、『比較文学年誌』(早稲田大学比較文学研究室)52、 pp.16-33、2016の2点を公表し、次年度に予定していた祝婚歌に関する研究が先行した。2017年3月発行の『西洋古典学研究』(日本西洋古典学会)に上記Wareの著書に関する書評を掲載できた。フィレンツェに研究出張することにより古代石棺の図像と本研究の関係への理解を深めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
テクストの読解を進める過程で、次年度に予定していたクラウディアヌスの祝婚歌と古代文学の有機的関係に関する調査研究を先行させた方が、後の展開をスムーズにできると考え、まず祝婚歌に関する論文を2編完成させたので、その分、叙事詩的伝統とクラウディアヌスの関係を考え、ひいては古代と中世の接点としてのクラウディアヌスの位置を考える契機とすると言う観点からは、研究は予定した通りの進展は見せていない。しかし、時次年度に予定していた内容を先行させたこともあり、29年度は遅れている、28年度に予定した叙事詩の伝統とクラウディアヌスの関係に関する研究をより円滑に進めることができ、研究途上で昨年のような予定変更がない限り、研究成果につながっていくものと考える。特に、『西洋古典学研究』にWareの書評を書くに際し、著者の主旨である叙事詩の伝統と、政治的作品に関しても多くの知見を先行して得たので、30年度の中心課題となる予定の諸作品に関しても、一定の見解をまとめる準備ができた。これらが研究成果につながるためには、29年度、30年度におけるテクストと先行研究の精査が必要であり、最終目標をどのくらい達成できるかは29年度の進展状況にかかっており、その意味ではやはり「やや遅れている」と自己評価せざるを得ない。29年度は本務校から特別研究期間を認められ、古代作品を現在に伝えた中世の写本を多数所蔵するラウレンツィアーナ図書館を擁するフィレンツェにおり、招聘先であるフィレンツェ大学から同図書館への紹介状も取得しているので、昨年の研究出張からの連続性を活かして、遅れを挽回して行きたい。
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Strategy for Future Research Activity |
申請時点では2年目の29年度に行う予定であった祝婚歌の伝統とクラウディアヌスの関係に関する研究を28年度に先行して行ったので、29年度は28年度に行う予定であった古代叙事詩の伝統とクラウディアヌスおよびその影響を受けた古代後期の詩人たちに関しての研究を中心として、30年度に予定している同時代の政治を反映した作品研究につなげて行きたい。上記「現在までの進捗状況」で述べたように、現在、本務校から特別研究期間による在外研究を認められ、訪問教授として招聘を受けたフィレンツェ大学に籍を置いてイタリアに滞在しているので、クラウディアヌスが活躍した時代に存在し、現在も反映しているローマ、ミラノ、ナポリ、フィレンツェ、フィエーゾレ、ラヴェンナにクラウディアヌスの痕跡を訪ね、さらに彼に影響したり、彼の影響を受けた古代後期の詩人たちの活躍の場であった南仏にその足跡を訪ねることも可能な限り、試みながら、文献的にも恵まれた環境でのテクスト解読を進めたい。申請時には予想が及ばなかったことではあるが、ローマ時代に多く制作されたギリシア神話を主題とする古代石棺の浮彫パネルには、古代後期の詩人たちが扱った主題が相当数見られ、イタリアにいる地の利を活かし、予定したテクスト解読のみならず、古代図像と先行する文学作品、後続する文学作品の相互影響を考えることにより、宮廷詩人であったクラウディアヌスの作品への理解が深まり、研究が進展するものと考えられる。先行研究もあり、日本では参照が難しいものがあったが、既にフィレンツェの3つの図書館への紹介状をフィレンツェ大学からもらっており、可能なら、ミラノやローマの図書館にもアクセスし、写本を閲覧し、先行研究の参照を行い、諸地方の考古学博物館や美術館で古代図像と中世の図像を少しでも多く調査することにより、叙事詩研究と、次年度に予定される政治的作品の研究につなげて行きたい。
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Causes of Carryover |
海外への研究出張を二度予定していたが、校務と授業で夏季休業の一時期しかその日程を確保できなかった。また、研究出張に際して、その目途としたのは西欧の有名図書館に所蔵されている古代文学作品の中世写本を閲覧することと、諸地方の考古学博物館で古代図像を調査することであり、後者に関しては成果が得られたが、前者に関しては、ラウレンツィアーナ図書館で、イタリアの研究機関からの紹介状を要求されたが、それが間に合わなかった。本務校から29年度の特別研究期間を認められ、フィレンツェ大学から訪問教授として招聘され、一年間の在外研究をフィレンツェ大学でできる見込みがたち、イタリアの図書館への紹介状も書いてもらえる見込みがっ立ったので、ある程度まとまった金額を29年度に残した方が、イタリアと言う地の利を得た滞在地で、西欧各地の図書館、博物館、古代遺跡を訪ねる費用に充てた方が有意義なのではないかと思うに至った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上で述べているように、29年度は本務校から特別研究期間を認められ、訪問教授としてフィレンツェ大学に籍を置いて、イタリアに滞在している。昨年の残額との合計の経費を、イタリア各地および一部の西欧諸国の図書館、博物館を訪問し、調査研究を行う費用に充て、うち120,000円は日本国内では買えない図書資料の購入に配分したい。フィレンツェに関しては、旅費はかからないので、旅費は主としてミラノ、ローマ、ナポリと言ったクラウディアヌスに直接関係する地の図書館、博物館を訪ね、当初の研究計画に加えて、昨年の研究出張の成果として古代石棺の図像と先行、後続の文学作品の関係性の考察が、本研究にきわめて重要な意味を持つことを認識するに至ったので、イタリア国内のみならず、少なくともミュンヘンとコペンハーゲンの古代彫刻博物館を訪問する予定である。
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Research Products
(2 results)