2017 Fiscal Year Research-status Report
西欧古代と中世の文学史における連結点としてラテン語詩人クラウディアヌス
Project/Area Number |
16K13211
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
宮城 徳也 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (90278789)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | クラウディアヌス / 叙事詩 / スティリコ / 祝婚歌 / セネカ / 悲劇 / フィルヘレニズム / 古代と中世 |
Outline of Annual Research Achievements |
特別研究期間を認められ、フィレンツェ大学に訪問教授としての招聘を受けたことで、一年間イタリアに滞在することができたので、科研費の多くを旅費として申請し、これも認められたので、在外研究中に論文をまとめることよりも、論文に結実させる基礎的知見の獲得にフォーカスした。研究主題であるクラウディアヌスの活躍の場と考えられるローマ、ミラノ、ラヴェンナを複数回訪れたのをはじめ、古代と中世の結節点としてのクラウディアヌスの意義を理解するために、フィレンツェ周辺の小都市、イタリア国内の諸都市を訪ねて、中世のキリスト教遺産を実見した。またローマ以後に引き継がれるエトルリア諸都市のフィルヘレニズム(ギリシア愛好)を理解するために、エトルリア人の故地である諸都市、各地の博物館を訪ね、ギリシア、エトルリア、ローマ、キリスト教世界と言う西欧の歴史を貫く精神的支柱である、ヘレニズム、フィルヘレニズムに関する理解を深めることができた。フィレンツェ大学からの紹介状により、ラウレンツィアーナ図書館で、クラウディアヌスにも影響を与えたと思われるセネカの稀覯写本の閲覧を許され、古代の遺産を中世の西欧がいかに保存し、その精神を伝えたかについて確信を得ることができた。またオスティア、ポンペイ、エルコラーノの古代遺跡を丁寧に調査することによって、本質的に都市文化であるローマ時代の文化の在り方を再確認することができた。ミラノ近傍のモンツァではクラウディアヌスの保護者スティリコの一家の像の浮彫が施された象牙細工を見ることができた。ヴァティカン博物館をはじめとするイタリア国内の博物館のみならず、古代彫刻と陶器画を実見するために、コペンハーゲンとミュンヘンを訪ね、それぞれのコレクションを丁寧に観て、古代文化への理解を深めた。その間にも、クラウディアヌスのテクストの読解を進め、イタリアにおいて、貴重な諸文献の入手ができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
特別研究期間でイタリアに滞在し、多くの都市を訪れ、できるだけたくさんの古代遺産、中世遺産を実見することにフォーカスしたので、テクストの講読は、特にクラウディアヌスとその影響を受けた古代末期の詩人たちの作品に関して並行して行なったが、これらの成果を論文にまとめるには至らなかった。しかし、各地に足を運び、関係資料を見ることにより、テクストや先行研究への理解が進み、これらを整理することができたので、次年度以降に後れを取り戻すべく、可能な限り、学術誌への投稿を試み、論文を掲載してもらう準備は整ったと思われる。本来ならば、完成していなければならない複数の論文が遅れていることは遺憾ではあるが、キリスト教世界に生きながら、ヘレニズムの精神をラテン語で形にした詩人クラウディアヌスが活躍した諸都市に足を運び、関係資料を見、入手できる文献は入試したので、これらを足掛かりに、クラウディアヌスと、ウェルギリウス、オウィディウス、セネカ、スタティウスなどの先行作家、ドラコンティウス、シドニウスなどの後進作家との関係をまとめる準備はできたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
科研費の最終年度にあたり、論文を少なくとも3本をまとめ、周辺的だが、関係する作品の翻訳出版を実現し、京都大学学術出版会が個人全訳翻訳者に指名されているクラウディアヌスの主要作品の翻訳を進める。その際、当初考えていた、クラウディアヌス作品の全貌と後世への影響に関しては、間に合わない可能性が高いが、最終年度が終わっても、引き続き研究を続け、ヘレニズム、フィルヘレニズムの精神によって、古代異教文学とキリスト教ラテン文学の結節点となり、古代、中世を考える上での貴重な存在であるクラウディアヌスと言う詩人の全貌を明らかにする努力を続けたい。そのためには、出版予定の翻訳とその準備を通じて、作品そのものへの理解を深めながら、現在まで科研費によって入手できた文献を駆使し、特別権期間中の見聞、知見を活かしながら、クラウディアヌスの文学技巧、彼の保護者スティリコと皇帝ホノリウスの葛藤を軸とする政治状況、西ローマの脅威でありながら、新たな文化を生んでいく原動力ともなったゲルマン諸部族との関係、先行作品の影響と、なぜ中世にクラウディアヌスが読まれ、多くの写本が古代の大作家たちに優るとも劣らぬほどの数の写本を残っているのかを考え続けたい。それらを実現するための土台を確立するための最終年度にあたり、クラウディアヌスにも影響を与えたセネカの散文作品の翻訳と、それらの作品と悲劇作品の関係、新たにクラウディアヌスの作である可能性が指摘された作品の検証、クラウディアヌスにも見られる古代の恋愛思想に関して2世紀の段階で一定の整理を行ったプルタルコスの論考、と少なくとも3本の論文を発表する予定である。これらが実現しても、研究課題であるクラウディアヌスの古代と中世の結節点としての全貌を明らかにするには至らないが、なお、継続して研究を続ける土台となるのは間違いないだろう。
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