2017 Fiscal Year Research-status Report
中国作家協会による報奨制度改革 --重点作品支援制度を中心に
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16K13213
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Research Institution | Chubu University |
Principal Investigator |
和田 知久 中部大学, 国際関係学部, 准教授 (40553102)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 中国文学 / 文学制度 / 報奨制度 / 中国作家協会 / 重点作品支援制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、中国作家協会が21世紀の今日において、作家や作品に如何なる物理的、現実的な影響を及ぼしているかについて解明することを目的としている。 本研究は、2004年から実施されている重点作品への支援制度に着目し、①制度自体が如何に創設され、運用されているかについて検討することと、②「重点作品支援篇目」に選ばれた個々の作品を読解、分析することを通じて、新時期における中国作家協会の個々の作家や作品への関与のあり方について調査と考察を行うものである。 平成29年度末までに①に重点を置いて研究を進めた結果、研究報告を1回実施し、論文1篇を発表することができた。研究報告では、重点作品支援制度が施行されるまでの経緯に着目し、本制度が茅盾文学賞の授賞改革と併行して創設されたものであることを指摘した。本研究報告は、報奨制度に関する研究がそれほどなされてこなかった我が国の中国同時代文学研究史において一定の意義を持つものである。論文では、閻連科の小説論『発現小説』を取り上げ、本著で提唱されたリアリズム観である「神実主義」が如何なる主張であるかを考察した。国内外での評価も高い一方で、中国国内で相次いで発禁処分を受けている閻連科の主張は、政治による文芸への干渉である重点作品支援制度の趣旨とは正反対に位置するものであり、本論文は本研究課題を遂行する上での対称軸となるものである。また、文献・資料の収集について言えば、9月に北京において現地調査と収集をおこなったことに加えて、本研究課題遂行に遅滞をきたす一因ともなっていた所属機関の設備故障が解消されるとともに、必要とするマイクロフィルム資料の一部を購入することができた。ただ、これらの資料を活用しての研究は緒に就いたばかりであり、②の個別作品の検討についても依然として遅滞をきたしていることは否めない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成30年度は本課題研究の最終年度であるが、①「重点作品支援制度自体が如何に創設され、運用されているかについての検討」については、当該制度創設に至る経緯を研究報告できたほかは、進捗上はかばかしいものはない。その原因として、関連する文献・資料の入手に時間がかかってしまったことと、入手や閲覧できる資料に限界があることが挙げられる。例えば、作家協会全国委員会会議の議事進行や、主要な報告文書についてはすでに入手している資料で追跡・確認することができるものの、それに至るまでの下位の会議や組織において検討された内容については、現行の制度であることや、対外的な資料公開に制限があることから、窺い知れない部分がやはり多いことが研究を遂行する上で明らかになってきた。その点を補うものとして、中国作家協会とは対極に位置する個別作家の小説論を検討したり、文学関連の定期刊行物(例えば年鑑など)を取り上げて、その編輯体制や収録記事、分類法などから文学の制度化について考察を加えたりしている。後者については、一部をすでに論文化し平成30年度の早い時期に発表する予定である。また、中国作家協会を検討するにあたって、同様の組織(例えば1950年代台湾で創設された中国文芸協会など)と比較することで、より鮮明にその特徴を把握できるのではないかと考え、現在基礎的な資料を収集し読み込んでいる最中である。当然ではあるが、①の本制度が如何に運用されているかについての研究は現在も他の作業と並行して進めている。②についても進捗は遅れているが、本制度に採択された近年の話題作を中心に取り上げて検討を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
残された時間も限りがあるため、如何に区切りをつけるかも念頭に置きつつ、研究計画全体の見直しが必要であると考えている。 ただ、資料入手の困難さもあるが、継続して①「重点作品支援制度自体が如何に創設され、運用されているかについての検討」を最優先に、収集した文献・資料の整理と分析を進め、年度中にはその研究成果報告を行い、論文化を進めたい。文芸に政治が介入するということの意義とその歴史性、中国における特殊性に着目しつつ、1950年に台湾遷移後の中国国民党政府下で設立された中国文芸協会と比較することで、中国作家協会という組織自体への考察を加えたい。 ②「重点作品支援篇目に採択された作品の整理、分類」についても進めてゆく。各年度の選出作品数が比較的多いため、年度ごとの特徴を明確にするとともに、各年度を通じた傾向などについて整理したい。創作時から公刊、販売促進まで全面的な支援を受けているだけでなく、著名な作家も当該制度の支援を受けていることが判明している。作家協会の支援を受けて創作活動をおこなっている作家ごと、作品ごとの支援の情況について追跡調査する。加えて、本制度に採択された近年の話題作の読解をおこなう。徐則臣『耶路撒冷』と林白『北去来辞』を取り上げ、従前の作品と比較しつつ作品を読み解くだけでなく、成立過程や採択後のメディアでの評価や、作家協会によるプロモーション活動についても追跡することで、本制度による作家、作品への関与のあり方を総合的に検討できるよう努めたい。 民間団体ながらも行政組織的な性質を多分に帯びている中国作家協会たる組織が、中国共産党政権の文芸政策実現のために実際の文学の場にどれほど関与しうるのかを、重点作品支援制度の検討を通して可能な限り明らかにし、最終的には同時代中国における文芸作品の生産と流通の形態についての研究にあらたな知見を提示することを目指したい。
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Causes of Carryover |
中国での現地調査を2回予定していたが、1回しか実施できなかったため、旅費の一部、人件費・謝金、その他を費消しえなかった。また、手配していた文献・資料の一部が入手できなかったため、物品費の一部に残額が生じた。 平成30年度にも中国あるいは台湾での現地調査と文献・資料の取集を予定しているが、それと併せて、研究結果発表のために国内出張も予定している。文献・資料については新たに購入が可能となったものもあるため手配中である。また、資料のデジタル化のための機器を購入する予定である。
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