2018 Fiscal Year Research-status Report
中国作家協会による報奨制度改革 --重点作品支援制度を中心に
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16K13213
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Research Institution | Chubu University |
Principal Investigator |
和田 知久 中部大学, 国際関係学部, 准教授 (40553102)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 中国文学 / 文学制度 / 報奨制度 / 中国作家協会 / 重点作品支援制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、中国作家協会が21世紀の今日において、作家や作品に如何なる物理的、現実的な影響を及ぼしているかを解明することを目的としている。 本研究は、2004年から実施されている重点作品への支援制度に着目し、①制度自体が如何に創設され、運用されているかについて検討することと、②「重点作品支援篇目」に選ばれた個々の作品を読解、分析することを通じて、新時期における中国作家協会の個々の作家や作品への関与のあり方について調査と考察を行うものである。 平成30年度末までに、①についての研究を進めた結果、論文1篇、研究紹介を目的とした文章1篇を発表し、研究報告1回を実施することができた。 論文では、『中国文芸年鑑』を取り上げ、各巻の体裁、編纂体制、収録記事とその分類法などに着目しつつ、その特徴や意義について検討し、それらが1980年代中国における文芸システムとどのように関係していたのかを考察した。また、1950年代台湾で実施された中華文芸奨金委員会による反共文学に対する創作補助制度を取り上げて、政治的な必要から制度によって「生産される」文芸の姿について研究報告を行った。あと、1950年代に台湾で発表されたある反共小説を取り上げ、作品の概要とその筆者の生涯について紹介する文章を発表した。さらに、台北市内の大学や図書館、資料室などで1950年代の反共文学に関連する資料の収集を行った。これらはいずれも重点作品支援制度を研究する際の参照軸となるものである。また、②の個別作品の読解、分析については依然として遅滞をきたしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
重点作品支援制度を中心に、中国作家協会が21世紀の今日において、作家や作品に如何なる物理的、現実的な影響を及ぼしているかを解明するという、本研究課題の目的については変更はないものの、資料入手の困難もあり①「重点作品支援制度自体が如何に創設され、運用されているかについての検討」方法に一部見直しを行った。 具体的には、作家協会による創作介入とは対極的な立場から創作を続ける作家の文学論や、『中国文芸年鑑』の編纂体制や収録記事、分類法の変遷を考察することにより、本来の制度自体の検討だけでなく、制度の周縁からその本質に迫る方法を追加することにした。平成30年度においては、1950年代台湾遷移後の中国国民党政府下で創設された中国文芸協会や文芸奨金委員会、それらが提唱した反共文学の振興を取り上げて、中国作家協会による創作への介入と比較検討を実施した。その中でも金溟若の反共小説についてはすでに論文を執筆し終えており、平成31年度の早い時期に発表する予定であり、1950年代台湾における反共小説の振興を目指した創作補助制度についても今年度中に論文化する予定である。結果として、文芸に政治が介入するということの意義とその歴史性、中国における特殊性に着目してより多面的重層的な研究を進めることができたのはもともと予期し得なかった成果である一方で、本来の研究目的がやや散漫になるのではないかという懸念も出てきた。 また、②「重点作品支援篇目に採択された作品の整理、分類」については、充分な時間を取ることができず、進捗ははかばかしくないが、対象とする作家と作品はすでに決定しており、現在、作品の読み込みと資料の収集と分析を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度が補助事業期間の最終年度であり、研究計画遂行の遅れを取り戻すべく今年度に引き続き各課題の研究作業の推進と、研究報告、論文化を進めていかねばならない。 ①「重点作品支援制度自体が如何に創設され、運用されているかについての検討」については、重点作品支援制度の年度ごとの実施状況と制度の変遷について継続して検討を進める。また、1950年代台湾における反共文学振興の際に見られた創作への介入に関して、中国文芸奨金委員会の原稿募集方法や文芸奨金制度実施状況について調査した結果を文章化するとともに、金溟若の反共小説創作についても引き続き論文化を行う。 ②「重点作品支援篇目に採択された作品の整理、分類」についても進めてゆく。各年度の選出作品数が比較的多いため、年度ごとの特徴を明確にするとともに、各年度を通じた傾向などについて整理したい。創作時から公刊、販売促進まで全面的な支援を受けているだけでなく、著名な作家も当該制度の支援を受けていることが判明している。作家協会の支援を受けて創作活動をおこなっている作家ごと、作品ごとの支援の情況について追跡調査する。加えて、本制度に採択された近年の話題作の読解をおこなう。徐則臣『耶路撒冷』と林白『北去来辞』を取り上げ、従前の作品と比較しつつ作品を読み解くだけでなく、成立過程や採択後のメディアでの評価や、作家協会によるプロモーション活動についても追跡することで、本制度による作家、作品への関与のあり方を総合的に検討できるよう努めたい。 民間団体ながらも行政組織的な性質を多分に帯びている中国作家協会という組織が、中国共産党政権の文芸政策実現のために実際の文学の場にどれほど関与しうるのかを、重点作品支援制度の検討を通して可能な限り明らかにし、最終的には同時代中国における文芸作品の生産と流通の形態についての研究にあらたな知見を提示することを目指したい。
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Causes of Carryover |
大学での日常業務の多忙と、資料の分析と研究発表の準備や論文化に時間を割かれ、予定していた国内外への資料収集のための出張が実施できなかったことと、一時的に消耗品などの購入の必要がなかったため。 平成31年度には、中国、台湾での現地調査と文献・資料の収集を行う予定である。同時に研究結果発表のために国内出張も予定している。文献・資料については新たに購入を予定するものがでてきた。今年度購入予定であったにも関わらず果たせていない、資料のデジタル化のための機器の購入も行いたい。
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