2016 Fiscal Year Research-status Report
方言周圏論と方言区画論の統合による新しい言語地理学の創生
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16K13232
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Research Institution | National Institute for Japanese Language and Linguistics |
Principal Investigator |
大西 拓一郎 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 言語変化研究領域, 教授 (30213797)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
沢木 幹栄 信州大学, 人文学部, 名誉教授 (20110116)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 方言形成論 / 方言周圏論 / 方言区画論 / 言語地理学 / 方言分布の経年比較 / 領域形成 / 言語変化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、方言周圏論と方言区画論を統合することで新しい言語地理学を創り出すことを目的とする。方言周圏論と方言区画論は、方言学上、対立する立場にあるととらえられがちであるが、いずれも方言がどのようにして成立したのかという、方言形成を解明することを究極の目的とする点では、共通するものであった。しかし、方言周圏論が個別項目の言語地図に現れた方言分布を対象にして、具体性の高い展開を見せたのに対し、方言区画論は、抽象的な理念から大きく踏み出すことができず、衰退してしまったという経緯を持つ。 共通する目標である方言形成に光を当て、それを中心課題にして、具体的データから考察するにあたって重要になるのは、方言分布の経年データである。時間間隔を隔てた方言分布を比較することで、実際に方言分布がどのような動きを見せるのかをとらえることができる。幸い、日本の方言学はそれに耐えるデータをこれまでに構築してきた。 比較の結果、見えてきたのは、方言学の常識になっていた方言周圏論的事実が現れてこないということ、その一方で、学史上放棄されてしまっていた方言区画論の想定していた区画的な領域の存在が顕在化してきたということである。 方言の形成を考える上では、言語変化のありかた、言語としての方言の持つ機能、方言を使う人間の社会構成と空間領域のありかたの把握が欠かせない。これらのことと、上記の事実の総合をもとに、方言周圏論と方言区画論を再考し、方言学の究極の目標である方言形成論を中核とした言語地理学の構築に接近するに至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全国規模の広域を対象とした方言分布データとして、1960年代に調査が実施された『日本言語地図』(LAJ)、1980年代に調査が実施された『方言文法全国地図』(GAJ)がある。これに対し、2010年代前半に全国方言分布調査(FPJD)が実施され、その一部は『新日本言語地図』(NLJ)として公刊されている。LAJのデータの一部とGAJの全データ、FPJDとNLJの全データは公開されており、これらを利用することで、30~50年の時間間隔(1.5~2世代に相当)に基づく方言分布の経年比較を実施した。 詳細地域を対象とした言語地図は、日本の方言学では1980年代を中心に多数編集されたが、その中に富山県庄川流域を対象とした『越中飛騨国境言語地図』と長野県天竜川流域を対象とした『上伊那の方言』があり、これらとの比較を主な目的とした調査が2010年前後に実施され、その結果は『庄川流域言語地図』と『長野県伊那諏訪地方言語地図』として公刊されている。これらのデータを用いることで、狭小地域を対象とした約40年を隔てた方言分布の経年比較を行った。 以上の経年比較を通して、(1)動詞否定辞過去形のンカッタが新たに分布領域を形成し、その領域が永続拡大するものではないこと、(2)語彙項目(「桑の実」、「ひっつきむし」など)でも新語形の発生が確認され、その領域が方言話者の空間的社会構成(一定の生活圏・共同体領域、婚姻圏など)と関係すること、(3)言語変化の発生地と社会的中心地の間には相関が認められないことがわかった。 これらのことは、方言学において教科書的に常識化している方言周圏論に適合せず、一方で、空間上、何らかの枠となる「領域」の概念を導入することが求められることになる。以上を活かした方言形成論を基盤とする言語地理学の構築を開始した。
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Strategy for Future Research Activity |
方言分布の経年比較をさらに推進する。その際に、(1)個別の項目ごとの比較、(2)全体的比較、の2方向から取り組む。 (1)においては、具体的な言語変化が分布にどのように表れるのか、すなわち、言語変化と分布変化の相関を解明することが中心となる。それぞれの言語変化の背景にある言語的特質(言語上基幹的なところに関わるのか、個別的な性質のものなのか、運用に社会が関与するのか、など)に十分注意を払いながら、地理空間上への現れ方を地図上で把握する。また、すべてを抽象的な地図の世界にとどめるのではなく、現実社会・自然環境との関係をとらえるため、地理情報や地域史情報の収集・整理につとめるとともに、フィールドワークも実施する。 (2)においては、地域間の言語上の距離(データ全体を見渡した際にどの程度の類似性が認められるか)をデータから求め、それと地理空間上の距離との間の関係を把握する。地理空間の扱いは、地図のほか、実際の空間距離も活用することにし、言語上の類似性としての言語距離と空間距離がどのように相関するのかを、地図やグラフを活用してとらえる。 詳細地域について、現在は2地域を対象として経年比較を行っているが、理論的普遍性を求めるにあたり不足があると認められる場合には、別途地域を拡大して経年比較を行うための基礎データを求めるフィールドワークを実施する。 以上をもとに、方言形成論を推進し、それを基盤とした言語地理学の構築を継続する。
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Causes of Carryover |
予定額より若干低額で図書資料が購入できたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
文具等、消耗品の購入に追加して使用することを計画している。
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Research Products
(11 results)
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[Presentation] 「ずら」の言語地理学2016
Author(s)
大西拓一郎
Organizer
平成28年度放送大学公開講演会
Place of Presentation
放送大学長野学習センター
Year and Date
2016-12-10 – 2016-12-10
Invited
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