2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K13233
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
菊地 朗 東北大学, 情報科学研究科, 准教授 (80177790)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 意味論 / 語彙意味論 / 価値の表現 / 生成文法 / コーパス / 合成性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究成果は、理論的側面と実証データの収集の2面に分けられる。 まず、理論的側面に関しては、善悪、好悪、美醜などの価値を表す言語表現の意味論については、Jackendoff (2006)による大まかな枠組みの提案にとどまっており、その後の大きな進展はみられていない状況であることを受け、統語構造と価値計算の仕組みを明らかにし、菊地(2016)「価値と合成性」にて、その成果を発表した。本論文では、形式意味論で各要素について合成的に意味計算が行われるのとちょうど同じように、統語構造に従って句の価値の値が決定されていくことを示し、同時に、語彙の概念意味に応じて価値がプラスになるかマイナスになるかが変わることを示した。統語構造と価値計算については、研究の前例がなく、国内の言語学者たちからユニークな提案であると高評価を得ている。 実証データの収集については、「価値」の表現が比較的多数生じるジャンルに注目して、言語資料を集めた。具体的には、国会における議論(予算委員会議事録)や、政治経済関係のSNSなどを中心に、多量の資料を集め、それをもとにコーパスを作成する作業を行った。ただ単に収集しただけの言語資料では、そのままの形で文法的な解析に利用することが困難であるため、適切なタグ付けを行う必要があり、そのためにかなりの時間を費やすことになっている。いまだ、その資料は、質量ともに公表するに値するレベルまでには達していないが、次年度以降に公表したいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、当初の予想に反して、心身ともに不調になることがあり、十分に時間と能力を課題に充てることができなかった。予定の進捗のおおよそ50%程度の達成であったと評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
菊地(2016)「価値と合成性」については国内の研究者から、新しい領域を開拓しているものとして、予想外に好評を得た。しかし、本論文は日本語論文であり、国外の研究者たちにはまだ評価を得ていない。それを踏まえ、より精緻化を加えて国際雑誌への投稿を行いたい。 また、言語データについては、国内の政治状況の変化に応じて、特にネット上での言説については政治をめぐって言説が先鋭化しているように思われ、それに応じて「価値」の色彩が濃い言語表現が豊富に生じている。これを好機ととらえ、より多くの資料を集め、コーパス化を進める予定である。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、書籍等を含む資料や(言語学関係以外の)学会出席などをする予定であったが、着手後、予想以上に基礎的理論の枠組みの整備がなされていないことに気づき、その整備に資源を費やすことが中心となった。理論の整備自体には助成金の必要はあまりなく、より応用部分が研究の大半を占めることになる次年度以降に予算資源を回すことの方が合理的と考え、そのように計画を修正した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
計画の修正に伴って、本年度中に言語学以外の必要書籍や資料を集める計画である。また、(言語学以外の)学会への出席等も頻繁に行う予定である。
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Research Products
(1 results)