2017 Fiscal Year Research-status Report
批判的思考力を育む日本語教育-学習方略研究の知見に基づいた授業の設計と実践、評価
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16K13244
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
小山 悟 九州大学, 留学生センター, 准教授 (50284576)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 批判的思考 / デザイン研究 / 質問作成 / コンテントベース / 日本語教育 / 学士力の育成 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請時に提出した計画書どおり、秋学期に勤務校において批判的思考力の育成を目指した日本語の研究授業を行い、合わせて6月にも香港の日本語教育期間で5日間の研究授業を行った。また、近県の大学においても日本人学生対象の集中講義を行い、比較データの収集を行った。 本研究の主たる研究課題は「中上級学習者対象の日本語の授業(歴史を題材としたCBI)で、どのような環境・条件を整え、どのような指導を行えば、学生たちの思考を刺激し、深く思考された高次の質問を引き出すことができるのか」であった。この課題を解決するために「講義後の質問作成を意識させることで学生たちの講義を聞く態度を変えさせ、より高次の質問を引き出す」という学習モデルを立て、これまで実践を繰り返してきた。しかし、(比較対象の)日本人学生対象の授業では想定どおりの成果が得られたものの、留学生対象の授業では、講義を聞く態度に変化が見られないまま、質問の質だけが中位の具体的・分析的質問のレベルまで高まるという逆転現象が生じていた。この問題を解決するために、学習方略研究の知見に基づいた学習モデルの再構築を行い、香港と筆者の勤務校で前述の2つの調査を行なったところ、留学生対象の授業でも日本人学生と同様に、批判的に講義を聞く態度に明らかな変化が見られ、質問の質も高次の「応用的質問」まで高めることができた。これを受けて、日本語教育学会春季全国大会で研究成果の発表を行うとともに、学会誌『日本語教育』にも論文投稿を行い、採択された(平成30年4月末掲載予定)。また、本研究で得た知見を教育心理学分野の研究者との共著『質問の理論と実践』(ひつじ書房)で発表することになり(2018年夏出版予定)、日本語教育関係者向けにも留学生対象の批判的思考教育の実践に関する書籍を出版することになった(2019年春出版予定)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の成果を発表できるのは3年目の平成30年度と考えていたが、平成28年度後期の授業で行なった学習モデルの再構築が期待以上の効果を発揮し、平成29年度中に主な研究成果を学会誌と全国大会で発表することができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で当初の課題はほぼ解決できたが、新たな課題として「学習方略の転移」が浮かび上がった。批判的思考力については領域普遍的な技能ではなく、領域固有性の高い技能であるとする見方があるが、本研究で行った追跡調査の結果を見ると、学生たちは、筆者の講義を批判的に思考しながら聞けるようになった一方で、他の教員の講義では従来と変わらぬ講義の聞き方をしていることがわかった。一方、日本人学生を対象に行ったふりかえり調査では、質問を考えながら講義を聞くという学習方略が他の授業にも転移していることをうかがわせるコメントが散見され、留学生対象の実践との違いが明らかになった。本年秋の新たな科研申請に向けて研究を進めていく。
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Causes of Carryover |
今年度秋学期に実施した調査データの文字起こしを業者に委託、または学生アルバイトを使って行う計画であったが、業者に委託するには残額が足りず、学生アルバイトを使うには時期的な問題があったため、次年度の人件費として残すことにした
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Research Products
(4 results)