2016 Fiscal Year Research-status Report
第二言語習得における音韻の習得―山梨市英語特区プログラムにおける通時的研究―
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16K13258
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
長瀬 慶來 山梨大学, 総合研究部, 教授 (80123701)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長瀬 恵美 就実大学, 人文科学部, 教授 (00228016)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 第二言語習得 / 早期英語教育 / 音声学・音韻論 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者は、特区として小学校1年次より英語教育を「教科」として先進的に導入しているX市の教育委員会の全面的協力を得て、X市Y小学校1年次の児童の、入学時点(T0)での母語(L1)および英語(L2)の母音体系およびその一年後の1年次末(T1) における英語の母音体系の分析を行なってきた。本研究では、その継続研究として、2年修了時(T1)、および3年次終了時に同様の母音体系の発達の分析を行う。それぞれの時点での、母音のフォルマンと周波数を母音空間にプロットして、T0→T1→T2→T3という4時点での母音習得状況を音響音声学的に評価する。 はじめて英語に接する小学校1年入学時から3年次末までの三学年の間に、母語(L1日本語)の母音体系(5母音)を出発点として23~25もある英語(米語)の母音体系をどのように習得していくかについて、両言語の母音の音響分析に基づき考察する。すなわち、L1の母音体系からL2の母音体系がどのように発達していくのかについての、通時的音響音声学的解析をその目的とする。 上記のX市の特区現場での実践的研究に加えて、海外に於ける以下の2言語使用の先進的取り組み機関および国を視察訪問する。そして、それぞれのプロジェクトにおける言語政策および言語習得状況を実地調査することにより、情報交換・情報収集を行い、第二言語習得実践におけるより効果的教授法及びカリキュラム等において、実証的検証を行うとともに、現場にフィードバックすることを目指す。 1.欧州評議会言語政策部(フランス・ストラスブール)EUの複言語政策を統括する部署であり、EU各国の第二言語習得の貴重な実践データの宝庫である。 2.マルタ共和国 1964年英国から独立するまで、英国領の植民地。そのため、現在でも英語とマルタ語が公用語となっており、2言語使用およびSLA調査対象として最適である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
X市のY小学校における音韻習得の予備的研究をさらに発展させ、1年経過時点(T2)、2年経過時点(T3)、3年経過時点(T4)の2年の間にどのような英語音韻習得の様相を見せるかについての、①記述的、②通時的、③音響音声学的、研究を行っている。 昨年度は、日本語の「あ」の領域にある英語の低母音および中舌母音の1年次末から2年次末にかけての時系列に沿った発達について、各児童及び全体的な発達の解析を行った。結論としては、曖昧母音に課題は残るものの、この2年間で日本語の「あ」の領域から英語の各5母音の領域へと分化して行っていることが検証された。同時に、計画していた、欧州評議会言語政策部およびマルタ共和国において、二言語使用の先進的取り組みの調査を行った。前者では、EUの言語政策、特にCEFRおよびEU加盟諸国の複言語政策に関する情報収集・情報交換を行った。また、後者においては、マルタ大学の協力を得て、現地の小学校、中学校および高等学校において、授業における英語とマルタ語の二言語使用の実際を観察した。 それらの成果は、以下の学会及び学術誌において発表した。 口頭発表 1.長瀬慶來・長瀬恵美「第二言語習得における音韻の習得II-山梨市特区英語初等英語教育における音韻習得の2年間の通時的音響音声学的研究」日本児童英語教育学会第37回全国大会 於東京家政大学 平成28年6月19日. 論文 1.長瀬慶來・長瀬恵美「第二言語習得における音韻の習得II-山梨市特区英語初等英語教育における音韻習得の2年間の通時的音響音声学的研究」『山梨大学教育学部紀要』第25号 pp.251-260, 平成29年3月. 2.長瀬恵美・長瀬慶來「マルタ共和国における言語政策とその現状―マルタ語および英語による二公用語政策とバイリンガル教育を中心として―」 『就実英学論集』第33号 pp.1-20, 平成29年1月.
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Strategy for Future Research Activity |
これまで、X市のY小学校における1年次入学時から3年次までの音韻習得の継続的研究を行ってきている。28年度まででは、1年経過時点(T2)、2年経過時点(T3)の2年間にどのような英語音韻習得の様相を見せるかについての、①記述的、②通時的、③音響音声学的、研究を行った。 29年度は、日本語の「あ」の領域にある英語の低母音および中舌母音の2年次末から3年次末にかけての時系列に沿った発達について、各児童及び全体的な発達の解析を予定している。これまでの2か年にわたる研究成果の集大成として、予備的研究も含めた3か年の音韻習得の総括を行う。展望としては、28年度までの課題として残っていた、曖昧母音の習得、および日本語の「あ」の領域から英語の各5母音の領域への更なる分化が期待される。 各母音の位置を時系列に沿って比較検証することによって、①L1 (母語)の母音体系から②T2時点のL2(英語)の母音体系へ、③さらにはT3時点のL2(英語)の母音体系への、予備的研究と本課題研究を含め、全3年間にわたる学習の成果と生徒の変容を評価する手立てとしたい。 同時に、中華人民共和国香港特別行政区における、二言語使用の先進的取り組みの調査を行う。香港特別行政区は、1997年に中国に返還されるまでは、英国領として英語が用いられていた。1997年以降、一国二制度のもと中国化されてきたが、依然として英語と中国語の2言語使用状態である。そのため、2言語使用とSLA調査対象として最適である。 香港においては、香港教育大学および香港科学技術大学の協力を得て、現地の小学校、中等学校において、授業における英語と中国語の2言語使用の実際の観察および現地の授業担当者・両大学の第二言語習得研究者との情報交換を予定している。
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Research Products
(3 results)