2016 Fiscal Year Research-status Report
アメリカ西海岸におけるアジア武術の受容、普及および変容 1950年‐1993年
Project/Area Number |
16K13280
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
モラスキー マイク 早稲田大学, 国際学術院, 教授 (80585406)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
坂上 康博 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (10196058)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 文化交流史 / スポーツ史 / 武術研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、東アジア発祥の多様な伝統武術と武道(以下、「アジア武術」)が、米国の西海岸で1950年から1993年にかけてどのように伝播し、受容され、普及し、そして新たな文化行為(cultural practice)へと変容しながら定着していったかという一連の過程を、実践および表象の両面から究明することにある。研究の初年度に当たる平成28年度は、この目的の達成に向けて、以下の作業を実施した。 (1)日米両国における資料収集――日本においては、①研究代表者による在日米兵向けの新聞「星条旗」(Stars and Stripes)の終戦直後から1960年代までの柔道、柔術、空手、合気道、剣道など日本の武道・武術に関する記事の検索および収集、②研究分担者による日本語で書かれた日系移民と武道・武術に関する資料および占領下の日本の武道・武術に関する資料の検索および収集を行なった。米国においては、③研究代表者と分担者の共同作業として、平成28年8~9月にサンフランシスコ市内で実施した現地調査の一環として、同市立図書館で東アジア武術の現地での受容および普及に関する英文資料の検索および収集を行った。 (2)サンフランシスコ周辺での現地調査――研究代表者と分担者が共同で、平成28年8~9月にサンフランシスコ市内で現地調査を実施し、上記の資料収集のほかに、①市内の多様なアジア武術の伝授の現場(道場のみならず野外教室も含む)の観察、②指導者および実践者へのインタビュー、③サン・マテオ市の日本人が指導する剣道道場での稽古現場の観察およびインタビューを実施した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の課題のうち、道場で伝授されたアジア武術の伝播と変容という実践面での究明に関しては、(1)日米両国において実施した資料収集、(2)サンフランシスコ周辺で実施した現地調査によって、①とくに1980年代以降の現地における各種目の盛衰や入門者の変動等の概要を把握することができた。 ②占領期における米兵への日本武道の伝播という点について、新たな史実の発見があり、その全貌がかなりの程度明らかになった。その成果の一部は、坂上康博「GHQ占領下における剣道――規制、存続、スポーツ化、芸能化の諸相――」(『一橋大学スポーツ研究』第35巻、2016年12月、pp.3-17)として公表した。 ③これは予期せぬ成果であったが、戦前に米国西海岸を中心に多くの日系二世に剣道を指導した中村藤吉の関係資料の収集および家族へのインタビューが実現したことにより、戦前における日系移民による日本の武道の伝播に関しても新たな史実を明らかにすることができた。 本研究の課題のうち、アジア武術の伝播と変容を表象面から究明するという課題に関しては、サンフランシスコ市立図書館で収集したアジア武術に関する広告が表象分析の重要な資料となりうる。アジア武術に関する広告の推移には、映画等でのアジア武術の人気の趨勢が密接に関連していること等が読み取れ、多様な分析が期待できる。 平成29年5月には、研究代表者と海外研究協力者であるカーディフ大学のポール・ボウマン氏との共催により、英国バース市にて日本の武術に関する研究をめぐる国際シンポジウムを実施し、研究分担者の坂上康博が、同シンポジウムで「The Creation of Kendo’s Self-Image from 1868 to 1945:A Critical Analysis of Invented Tradition」という研究発表を行った。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、平成29年度に以下のような諸作業の実施を予定している。 (1)研究代表者と研究分担者による日米における関係資料の検索・収集・読解作業の継続。 (2)研究分担者である坂上が、5月に英国バースで研究発表したものをカーディフ大学発行の審査付専門誌“Martial Arts Studies”の特集号 “New Research on Japanese Martial Arts”(仮題)に掲載するため、当日の議論をふまえた原稿の執筆を行なうとともに、研究代表者モラスキーは、同特集号の共編者としての編集作業に従事する。なお、特集号の発行は2018年夏号を予定している。 (3)平成29年度8月に研究代表者と研究分担者が共同で、約1週間ワシントン州シアトル市で現地調査を行ない、①米国におけるアジア武術の受容史研究の第一人者であるJoseph Svinth氏へのインタビューと資料に関する意見交換、②シアトル市立図書館での資料収集、③市内の多様な東アジア武術道場での現場観察および関係者へのインタビューを実施する。
|
Causes of Carryover |
旅費は予想より多少安く済んだため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究図書購入のため。
|
Research Products
(2 results)