2016 Fiscal Year Research-status Report
水産業の国際的展開と地域社会の変容ー世界と東アジアをつなぐ日本ー
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16K13281
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
麓 慎一 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 教授 (30261259)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 水産業 / 種川思想 / 人工ふ化事業 / アメリカ合衆国 / 伊藤一隆 / 塩業 / 缶詰 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は研究計画に記した水産総合研究センターおよび神奈川大学常民文化研究所における調査を実施した。特に日本人の韓国における漁業活動について水産総合研究センターで関係史料を調査して写真撮影を行った。また研究協力者の韓国人の水産史研究者との討議を行うことができた。釜山における日本人の漁業活動を解明することが本研究にとって重要であるという認識を得ることができた。研究代表者の麓慎一は、国立国会図書館および北海道大学などに所蔵されている水産関係の雑誌(『水産会』など)を調査した。 「水産技術と水産思想」については、鮭の人工孵化技術がアメリカ合衆国から水産官僚の伊藤一隆によって日本(北海道の千歳)にもたらされた経緯について分析を行った。これまで彼がアメリカ合衆国に派遣されたあとに上梓した報告書によって考察を加えてきたが、今回の新聞調査(『北海道毎日新聞』など)によって彼のアメリカ合衆国における活動を詳細を解明することができた。さらに 「魚付林思想」や「種川思想」については北海道立文書館において関係史料を調査した。とりわけ「種川思想」が実際に機能しなかった点を解明する史料を入手することができた。 漁獲物の加工に利用される塩の問題については、日本の専売制度との関係を分析する必要があることを認識することができた。この塩の確保の問題については中国海洋大学の研究者から示唆をさらに受けることができた。漁獲物の加工のための塩の調達がそれを生産している地域社会に影響を与えたことが推定できた。「水産技術と地域社会」では、鰊から魚肥を得るための機械がアメリ合衆国から移入されたことを明らかにする史料を入手することができた。この機械の輸入についても伊藤一隆が関係し、その実地運用が北海道で実際に行われたことも新聞史料から明らかにできた。 以上が平成28年度の研究実績の概要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの進捗状況が「おおむね順調に進展している」と評価できる理由を以下の点にある。第一に韓国の水産史研究者と共同で水産総合研究センター中央水産研究所図書館資料室と神奈川大学常民文化研究所において史料調査を実施することができた点である。具体的には『浦項ニ於ケル慣習調査』など朝鮮沿岸の状況調査に関する史料や『関東州漁業案内』など日本の影響力が及んだ地域での漁業活動について、これまでほとんど利用されていない史料群を調査するとともに写真撮影ができた点である。 水産博覧会および水産品評会については『朝日新聞』・『北海道毎日新聞』などから関係史料を調査し、収集した。水産関係の雑誌については「交付申請書」に記したように大正期を中心に調査を実施している。 外務省外交史料館が所蔵している史料群の中から明治末期から大正期にかけて台湾などで漁業資源の調査が実施されていたことを記録した史料を発見することができた。漁業者関係者たちが独自にそれを実施したのではなく、日本の海軍省がそれに深く関与するなど漁業資源の調査に政治的・外交的な意義があることが理解できた。この点についてはこれまで提出した「研究実施計画」に記さなかった問題であるが、本研究の目的である水産業の国際的な連関と地域社会の変容を解明するという趣旨に合致するので、新たな研究の視点として大切にしたいと考えている。 以上のように日本の国内における調査については順調に進展した。「研究実施計画」で記した国外の史料収集についてはロシア語史料以外では進展している、と評価できる状況にない。朝鮮半島における日本の漁業活動の中継点となった釜山についてはできる限り早く調査を実施したいと考えている。この釜山と日本の長崎が朝鮮半島および中国の遼東半島などでの日本人の漁業活動を支える拠点になっていたと考えられるからである。以上が現在までの進捗状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は以下の四点である。第一に、平成28年度の水産総合研究センター中央水産研究所図書館資料室で入手した史料の分析である。この史料は連携研究者や韓国の研究協力者と共有しているので、それぞれの研究者が分析を終わった時点で意見交換を行いたいと考えている。第二に、水産関係の雑誌から得た知見をもとに関連する史料を調査する。最初に釜山近海や元山近海の漁業について外務省外交史料館の3門5類・8項(漁猟・水産物)から該当する史料を複写して分析する。 第三に、漁獲物の加工に利用される塩と缶詰について関係する史料を調査する。缶詰については平成28年度に国立国会図書館および北海道大学などで閲覧する機会を得たが、缶詰の加工技術についての知見を得たものの、その技術革新が塩業の盛衰とどのような関係にあるのか、そしてまた缶詰の普及が漁業とその流通にどのような影響を与えたのかについては解明できなかった。平成29年度は塩業を中心にこの問題を考察する予定である。その一方で、魚から油を取る加工技術の進展が漁獲物の加工にあって大きな意義を持っていたことが推定できた。この点ついて平成29年度は関係する史料を調査する。第四に、第一と第二の点を踏まえて、韓国の研究協力者および日本の連携研究者と研究会を実施する予定である。 以上の四点が今後の研究の推進方策である。第一にあげた中央水産研究所図書館資料室で写真撮影した史料は膨大であり、その解析に集中的に取り組みたい。研究の副題である「世界と東アジアをつなぐ日本」のうち東アジアと日本の関係については多くの貴重な史料を入手することができた。今後は、世界と日本の関係により重点を置いて調査と分析を行いたい。また、日本人漁業者の移動や移住に伴って形成されるコミュニテイの維持に関連して、それを維持するための組織(自治会・宗教・同郷会)についても留意して分析を進めたい。
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Causes of Carryover |
韓国からの研究協力者の招へいに当初予想したほど経費を必要としなかった(滞在期間が比較的短時間で調査が終了できた)。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今後計画している韓国および中国の研究協力者なしは日本国内の研究代表者および連携研究者の国外および国内旅費として使用する予定である。
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