2017 Fiscal Year Research-status Report
水産業の国際的展開と地域社会の変容ー世界と東アジアをつなぐ日本ー
Project/Area Number |
16K13281
|
Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
麓 慎一 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 教授 (30261259)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 水産業 / 塩業 / 釜山 / 青島 / 領海 / ロシア極東 / 日韓併合 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年は、二つの点で大きな実績をあげることができた。第一は、9月21日から9月23日まで中国海洋大学で開催された同大学およびシドニー大学の国際研究集会で「山東半島と東アジアの塩業」と題して研究発表したことである。この発表で東アジアにおける漁業と塩業の関係を明らかにすることができた。さらに、関係する研究者から多くの助言と史料の提供を受けることができた。第二は、9月8日に韓国の国立釜慶大学校において「近代釜山と東アジアの水産業‐韓中・韓露関係を中心に‐」と題する国際シンポジウムを開催したことである。日本側は研究代表者の麓慎一を含めて3人が、韓国側は釜慶大学校を中心に4人の研究者が参加した。同シンポジウムは関係する研究者だけでなく大学院生および学生にも公開された。韓国側からは釜山の水産業や韓国における海産知識の歴史的な変遷についての発表などがあり、朝鮮の水産業に日本のそれが大きな影響を与えていたことを理解することができた。 研究代表者の麓慎一は「近代東アジアと韓国水産業」についての発表を行った。韓国・中国・ロシア極東・日本の水産業がどのように連関しているのか、という問題を明らかにした。特に、日韓併合後にロシア極東で行われた日本人と朝鮮人の漁業活動を考察した。また、この問題では領海についてのロシアと日本の理解の相違が重要であることを指摘するとともにロシアに拿捕された漁業者の史料から朝鮮のどのような地域からこの漁業に従事していたのかを解明した。この考察により水産業の国際的展開がロシア・朝鮮・日本の地域社会をどのように変容させたのかを明らかにした。 以上の二点が平成29度の主要な実績である。中国および韓国の水産史の研究者とネットワークを形成できたことで水産業の国際的な展開が中国や朝鮮の地域社会にどのような影響を与えていたのかを具体的に明らかにできた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画通り、平成28年度は基本的な史料の収集と分析を行い、平成29年度はシンポシウムを開催することができた。研究計画では中国海洋大学でのシンポジウムを予定していたが、同大だけでなく韓国の釜慶大学校でもそれを開催できたことで当初の計画以上に研究を進展させることができた。また、史料の収集と分析では、日本・ロシア・イギリスについては概ね順調に史料を収集することができたが、アメリカの水産業についての史料の収集は十分に進捗している、と評価できる状況にない。この点が予想以上に進捗している、と評価できない理由である。 研究計画の「研究の斬新性やチャレンジ性」で記した「水産技術と水産思想」および「水産技術と地域社会」の内、後者については成果があった。第一に、漁獲物の加工に必要な塩の確保の問題が、漁場の地域社会と塩を生産する地域社会に影響を与えていることを理解できた。第二に、第一とも関連するが、漁獲物の加工が塩漬から缶詰に変化し上記の地域社会に大きな影響を与えた、という見通しを得ることができた。第三に、漁獲物の加工のために利用される木材の調達や干場の設定が、地域社会の生産サイクルに影響を与えていることが判明した。木材の調達では漁場労働者の雇用の問題が深く関係していることも理解できた。これは漁業・雇用契約・森林資源が連動するという点で水産業が地域社会に影響を与えた事例である。 また、これまで中国海洋大学の研究者と水産研究におけるネットワークを形成してきたが、平成29年度に釜慶大学校においてシンポジウムを開催し新たなネットワークを形成できたことで研究を大きく進展させることができた。韓国における歴史学会において本研究のような水産業についての研究があまり進展していないことが理解できた点も成果であった。以上が現在までの進捗状況である。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は以下の通りである。「現在までの進捗状況」の中で、「水産技術」と「水産思想」の関係の進捗が遅れていることを記したが、最終年度はこの問題を中心に研究を展開する予定である。第一に、日韓併合後の日本人と朝鮮人のロシア極東(ウラジオストック周辺)などでの漁業活動が、ロシアとの国際問題になった点は海洋法の解釈に対する各国の認識の相違が関係しており、水産業が地域社会と国際問題を関係付けることが釜慶大学校でのシンポジウムで理解できた。平成30年度はこの問題に取り組みたい。第二に、大阪市立大学における研究会で北海道の海産物が中国に輸出される問題を発表したことに関連して、新たな研究の方向性を見出すことができた。この点を具体的に記す。チーフの中国商人が日本やロシアの海産物を集荷するために長崎のドイツ商人を利用していることを発表した。これに関連して、同大学のドイツ史研究者から長崎のドイツ商人の活動などについての情報を得ることができた。これは日本・中国・ロシア・ドイツに関係する、という点で水産業の国際的展開と地域社会の変容を明らかにできる研究対象であることが分った。本年度は、この研究会で得られたドイツ商人の動向をさらに明らかにする。第三に、第二と関連して、チーフの中国商人について中国の研究者から史料の提供を受けることができた。この点についての解明も進める予定である。 以上の点を中心に最終年度は研究を進展させ新たな科学研究費を獲得し、さらに水産業の国際的な展開が地域社会および外交関係や政治関係に与えた影響を解明したいと構想している。 「研究計画書」で記した中国海洋大学でのシンポジウムや韓国での研究会については平成28年度に実施することができたので、本年度は特段に計画していない。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、以下の二点である。第一は、中国海洋大学で開催された国際研究集会の旅費・滞在費を同大学とシドニー大学が共同で負担してくれたので本科研から経費を支出する必要がなくなった。第二は、水産事業に関係する政治家や官僚についての新聞史料の収集をアルバイトによって実施したが、当初、予想していたよりも短時間で複写作業を終えることができ、その経費が予想を下回った。以上の二点が「次年度使用額が生じた理由」である。 「使用計画」は以下の二点である。第一に、ロシアなどでの水産関係史料の調査と史料の複写のために利用する。第二に、国内の史料保存機関(北海道大学・国立国会図書館など)での史料調査の費用に充てる。第三に、『北海道毎日新聞』などの新聞史料の購入費および調査費(函館市立図書館など)に充てる予定である。以上が次年度使用額が生じた理由と使用計画である。
|