2016 Fiscal Year Research-status Report
訳官使と通信使の統合的研究―儀礼の空間とモノを媒介として―
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16K13282
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
池内 敏 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (90240861)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 訳官使 / 朝鮮信使 |
Outline of Annual Research Achievements |
訳官使について、対馬藩国元藩邸における接待儀礼の中核部分(五つの儀礼)について、得られる限り近世初頭の事例から近世後期に至る事例までを参照しつつ整理を行い、また床間に飾られた美術工芸品の変遷の概要を示し、さらに対馬藩が当時保有していた美術工芸品の一覧と突き合わせることで接待儀礼の変遷における特徴について見通しを立ててみた。その作業と密接にかかわるものとして、雪舟の作品についての先行研究を集めて検討するとともに、鳥取藩池田家における様々な儀礼行為における床間に掛けられた美術工芸品についても検討を重ね、対馬藩における外交儀礼との比較対象を進めるべく個別事例検討を進めた。 訳官使側の日記記録(18世紀初め)が最近になって紹介されたのを受けて、当該日記の画像データを入手して検討し、内容分析を行い、訳官使をめぐる日朝交流の具体像を明らかにした。そこで明らかになったのは、朝鮮信使における交流と訳官使における交流の違いの一つには距離の問題があること、また人的交流の蓄積の違いがあること、である。訳官使に随行した人たちのなかには日本語の通じる者が少なくないだけでなく、必ずしも日本語ができないにしても釜山倭館で対馬藩士との交流体験をもち、そのことが訳官使対馬来訪時の交流に特徴を与えている。 モノの交流という点で、対馬藩政史料に含まれる朝鮮とのあいだで往来した贈物・誂物の記録をいくつか検討し、18世紀末~19世紀初頭の具体的な様相を明らかにした。とくに1811年の朝鮮信使易地聘礼へ向けての交渉に際しては、対馬藩が長崎経由で入手したと思われるガラス製品が朝鮮へ送られていたり、朝鮮絵画が大量に日本に持ち込まれる際の持ち込まれ方の特徴がいささかなりとも明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
韓国国史編纂委員会所蔵の訳官使関係資料は膨大なので、一通り全体像をつかむところまでは済ませたが、すべての史料を複写収拾したり、目を通すところまでは至っていない。長崎県立対馬歴史民俗資料館所蔵分については、訳官使に直接関連する史料のかなりの部分は収拾済みである。しかしながら、2017年3月末をもって現地建て替えのため閉館となり、新規開館となる約2年後まで、改めて史料調査をすることができなくなった。この点については、国史編纂委員会分でどこまでカバーできるか、あるいは東京大学史料編纂所や国立国会図書館に所蔵されている対馬藩政史料(必ずしも訳官使が出てくるとは限らない)の日記類を活用してどこまでカバーできるか、見極めてみたく考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況でも示したとおり、長崎県立対馬歴史民俗資料館所蔵史料については、既収集分を除くと新規の活用が不可能となった。国史編纂委員会所蔵分の調査を継続するとともに、東京大学、国立国会図書館および慶應義塾大学にそれぞれ助走される対馬藩政史料の日記類およびゆまに書房から刊行されているマイクロフィルム類を活用しながら訳官使および朝鮮信使の検討を継続する。それとともに、儀礼の場に出された美術工芸品にかかわっては、対馬藩以外の大名儀礼におけるものとの比較検討をさらに進めたい。現在は鳥取藩池田家の事例を集めているが、萩藩毛利家の史料も収拾できたらと考える。
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Causes of Carryover |
わずかに繰り越しを生じたが、ほぼ全額使用と変わりない状況である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰越額単独で何か特別なことができるような額ではないので、合算して有効に活用する。
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Research Products
(2 results)