2016 Fiscal Year Research-status Report
古人骨の高精度元素・同位体分析を用いた弥生時代の人口移動・通婚圏の研究
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16K13293
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
高椋 浩史 九州大学, アジア埋蔵文化財研究センター, 学術研究者 (10759418)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 同位体分析 / 古人骨 / 弥生時代 |
Outline of Annual Research Achievements |
本州西端の響灘沿岸地域は、保存状態の良好な弥生時代人骨が数多く出土した地域であり、それらの古人骨資料を基に人類学や考古学の研究が展開されてきた。その中でも、土井ヶ浜遺跡は300体以上の弥生時代人骨が出土した集団墓地として、この人骨資料や埋葬遺構を用いて、人類学では金関丈夫の「渡来・混血説」に代表される日本人の形成史をめぐる議論、考古学では墓地分析に基づく弥生時代の社会組織研究がおこなわれてきた。 本研究は高精度元素・同位体分析機器を用いて、土井ヶ浜遺跡出土の弥生時代人骨の歯牙エナメル質のSr同位体を分析する。ヒトの歯に含まれるSr同位体比は個人が摂取した水や食物のSr同位体比を反映する。水や食物のSr同位体比はその土地の基盤地質の値を反映するため、人骨歯牙のエナメル質のSr同位体は幼児期の生育場所や婚姻による移動、集団移住を示すとされ、土井ヶ浜遺跡の弥生人集団の移動や通婚圏を解明できると期待される。人骨歯牙のエナメル質のSr同位体比の分析結果と、これまでの親族組織研究の結果と対比することで土井ヶ浜遺跡の社会構造についてより深化した評価が可能となり、さらには弥生時代の社会組織研究全体の進展に寄与することが期待される。 平成28年度は土井ヶ浜遺跡出土の人骨資料および動物骨資料の分析をおこなった。人骨資料については、土井ヶ浜遺跡・人類学ミュージアムが所蔵する土井ヶ浜遺跡出土の弥生時代人骨16体の歯牙と、同ミュージアムが所蔵する土井ヶ浜遺跡出土の動物骨資料8点の歯牙を分析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、土井ヶ浜遺跡・人類学ミュージアムが所蔵する土井ヶ浜遺跡出土の弥生時代人骨の分析を終えた。これまでの分析により、土井ヶ浜遺跡の西側墓域の資料の8~9割を終えた。また、動物骨の分析を通じて土井ヶ浜遺跡周辺のSr同位体比の範囲を把握することができ、土井ヶ浜遺跡内の中で移入者を推定するための見通しが得られた。そこから外れた個体について、埋葬位置や副葬品組成等の考古学的諸属性との関連性について検討を加えた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、九州大学総合研究博物館が所蔵している土井ヶ浜遺跡出土の弥生時代人骨資料の分析を実施する。 具体的には、土井ヶ浜遺跡の8次調査出土人骨の分析をおこない、土井ヶ浜遺跡の西側墓域のすべての資料の分析を終える。土井ヶ浜遺跡の墓地分布は西側と東側で違いがあり、西側墓域は墓地が列状に分布している。その列状の墓地の構成原理について、Sr同位体の分析結果と人骨の形質人類学的情報と副葬品の組成等の考古学的情報を統合し、検討を進める。また、土井ヶ浜遺跡の東側墓域のうち集骨墓の資料も実施していく。土井ヶ浜遺跡の集骨墓の特徴は、複数個体の頭蓋を一つの墓壙にまとめて埋葬する点である。集骨墓に埋葬された個体間の関係についてSr同位体分析から検討を進める。
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Causes of Carryover |
同位体分析をおこなうための試薬(アルゴンガス、ヘリウムガス等)の使用量が、当初予定していた量よりも少量であったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
同位体比分析をおこなうための試薬等の消耗品の購入に使用する。
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