2016 Fiscal Year Research-status Report
Comprehensive Analysis of Law and Policy in the American Food Policy
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16K13317
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
大沢 秀介 慶應義塾大学, 法学部(三田), 教授 (40118922)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アメリカ農業法 / ニューディール立法 / TPP / 財産権 / 国家目標規定 / 農協 / 農業マーケティング法 / 食料自給率 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究業績としては、2つあげられる。第1に、2016年12月17日に学習院大学で開催された第23回合衆国最高裁判例研究会において、アメリカにおけるフード・ポリシーに関する重要判決である連邦最高裁のHorne v. Department of Agriculture事件について、判例研究発表を行った。Horne事件は、ニューディール政策の中心的立法として知られる1933年農業調整法、1936年土壌保全及び国内割当法に続いて制定された1937年農業マーケティング協定法の規制の合憲性が争われた事件である。この事件で、連邦最高裁はニューディール政策の中でとられてきた生産調整による価格の均衡維持をはかる規制について、個人の財産権を侵害する場合には違憲となる可能性を示した。第2に、『武蔵野大学政治経済研究所年報』第14号(2017年)に論文「アメリカの農業政策と憲法」(37頁ー69頁)を掲載した。本論文では、TPP論争の中でしばしば指摘されながら、わが国ではあまり知られていないアメリカ農業法の歴史的展開を明らかにした上で、連邦最高裁がそれらの農業法及び農業政策に対してどのような判断を下したのかを検討し、アメリカ農業政策をめぐる規制の今後の動向を明らかにすることを目的とした。その結果として、アメリカの農業法及び農業政策の展開が、現在のわが国の農業政策に関連してもたらす有益な視点として以下の3点を指摘した。具体的には、①わが国の農業政策をめぐる議論は、極端な見解が見られ、より冷静な議論が求められること、②農業団体組織のあり方として農協改革が言われるが、より注目されるべきことは担い手改革にあること、③わが国の議論においてこれまで不足していた食料の流れを川上から川下まで一貫して捉え、それをフード・ポリシーとして国が憲法で示された国家目標規定に従って実施していくべきこと、などを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究のねらいは、わが国でこれまで不足していた食料生産から消費までの規制を憲法との関係でフード・ポリシーとして一貫した形でとらえ、それを実現するための規制のあり方を考慮するための手段としてアメリカにおける法制度及び政策を比較研究することにある。そして、その成果をわが国の場合にも活かそうとすることにある。その点でいえば、アメリカ最高裁のフードをめぐる最新の判例であるHorne v. Department of Agriculture事件を紹介しえたこと、及び『武蔵野大学政治経済研究所年報』第14号(2017年)に掲載した論文を公表できたことは、研究遂行の観点からは、本研究のいわば骨格部分が確定したことを意味する。それが本研究について、おおむね順調に推移していると評価する理由である。ただ、なお本来果たすべき課題も存在する。それは、わが国の学会がこれまでの縦割りの学問分野に応じて設けられているため、本研究のような領域横断的な志向を有する研究を進める場合には、研究者の関心をより確固としたものとして、個別の分野ごとにその研究を積み重ねる必要があることである。この点で、これまでのところ本研究はなお不十分な所を残しているといえる。もっとも、そのような問題は、挑戦的萌芽研究という特色上、ある程度は研究開始当初から予想されたところであり、今後はその点についてより注力をしていく考えである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究について、3つの点を考えている。第1に、アメリカにおける実情を把握するために、アメリカの学会及び現地視察を行うことである。とくにアメリカの穀倉地帯といわれる地域を調査することを考えている。この点は、アメリカの農業をめぐるこれまでの法制度及び政策がいかなる実情を踏まえて行われたのかを知る上で重要と考えている。第2に、アメリカの連邦最高裁の下したフード・ラベルと表現の自由の関係を見ることによって、遺伝子組み換え食物に関する表示規制について日米で比較検討を行うつもりである。遺伝子組み換え食物についてはこれまでも多くの研究がなされているが、それを憲法と関係づけて考察する予定である。第3に、わが国における農業政策の展開について、具体的な事情をできる限り踏まえて検討を行うようにしたいと考えている。この点でしばしばわが国で「攻めの農業」政策ということが指摘されることに対して、それがどの程度の政策実現可能性を有しているかを検討することを意味している。
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Causes of Carryover |
2017年度は、アメリカの学会が2年に1度開催されるものであったため、海外において適切な学会がなく参加できなかった。今年度はいくつかの海外における学会に参加することにしている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
海外への学会、日本の学会への参加費用として合計70万円、日本における調査として合計20万円、謝金として合計10万円、物品費として合計36万5044円
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