2019 Fiscal Year Annual Research Report
Protection of minorities in international law: a historical perspective
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16K13321
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
木村 元 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(北極環境変動総合研究センター), 特任技術副主任 (00731770)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 少数者 / 国際法学 / 常設国際司法裁判所 / 国際連盟 / 国際人権法 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、国際法上の少数者の保護の歴史的位相と法的な発展の連関を踏まえ、これまで実施してきた戦間期の少数者の保護に関する常設国際司法裁判所(PCIJ)の判決・勧告的意見の分析を総括した。 歴史的経緯を紐解くことで、少数者の保護の対象は、地域的にきわめて限定的(ヨーロッパ列強に影響を及ぼすおそれのある東ヨーロッパ)であり、ロシアや、日本の支配下にあった朝鮮、列強が植民地体制を敷いていたアフリカとは無縁の制度であった。今日人権条約に規定される少数者の保護とは異なり、少数者の保護の先駆としての宗教的少数者の保護を定めた条約は、いずれも基本的には締約国と締約国との関係における信教の自由を保障するものであり、個人の権利としての信教の自由が保障されていたわけではない。PCIJの判決・勧告的意見とその背景となる歴史的経緯を重ね合わせたならば、戦間期の少数者保護制度が、単に国民の多数と国内の少数者との間の平等を規定するだけでなく、少数者保護制度を足掛かりとして、すべての国民や住民一般について人権保障を義務づけるものであったことは、これが先の宗教的少数者の保護とは法理の上で断絶があることを意味する。戦間期の少数者保護制度の機能は、ロシアにおけるソヴィエト革命という国際情勢の中で、市民的権利の保障が進んでいない東ヨーロッパに「少数者」を見出すことで、少数者の保護を謳いながら人権保障を義務づけることに主眼があったと理解できる。 第2の断絶は、戦間期の少数者保護制度と第2次世界大戦後の人権条約との間にある。第2次世界大戦後は、戦間期とは逆に人権概念のなかに少数者の保護が包摂されるに至った。少数者の保護を理解するためには、国内における「少数者」の人権と国際平面における「少数者」の制度を混同することなく、位置づける必要がある。
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