2016 Fiscal Year Research-status Report
影響力/権力概念の再検討ー米国シンクタンクの事例を通じて
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16K13337
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
久保 文明 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (00126046)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山岸 敬和 南山大学, 外国語学部, 教授 (00454405)
菅原 和行 釧路公立大学, 経済学部, 准教授 (90433119)
宮田 智之 (近藤智之) 帝京大学, 法学部, 講師 (00596843)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | シンクタンク / アメリカ / 権力 / 影響力 / アイディア / 保守 / リベラル / 権力概念 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、アメリカの公共政策研究機関すなわち「シンクタンク」に焦点をあて、権力/影響力概念の再検討を行うことを目的としている。アメリカの政治学界では従来の関係論的な影響力の客観的証明を、あるいは統計的実証性を過度に重視する傾向から、シンクタンクそのものを対象とした研究は未発達であると言ってよい。こうした中で、本研究はシンクタンクの影響力について巨視的に、また権力の実体論に傾斜しながら捉えようとしている。具体的には、アメリカのシンクタンクには、①政策アイディア生産者・提供者としての影響力、②政治運動としての影響力、③政府高官供給源としての影響力、これらの三つの影響力の形態が見られることを明らかにしようとしている。 初年度となる本年度では、基礎的資料・データの収集を行うとともに、主にワシントンDCにおいてシンクタンク関係者への聴き取り調査を実施した。特に聴き取り調査では、報道や研究書では入手できないシンクタンクに関する貴重な情報が得られ、その具体的な成果としてシンクタンクの政治運動としての側面についての分析が進展した。すなわち、保守系シンクタンクに着目することにより、イデオロギー系シンクタンクが、①政策の情報源、②人材の育成、③連合の構築、これらの三つの機能を果たすことで政治運動を推進しているという、本研究の仮説がある程度証明されたと考えている。また、そのような最近の例として、ヘリテージ財団によって2010年に設立された政治団体であるヘリテージ・アクション・フォー・アメリカがオバマケアへの反対運動の中核として機能していることについても詳細な分析を加えた。これらの研究成果については既に短い論文の中で発表しているが、今後学会等で報告していく予定である。一方、政策アイディアの生産者・提供者としての影響力と、政府高官供給源としての影響力については資料収集の段階にとどまった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
政治運動としての影響力の解明に成功したことは、シンクタンクに関する既存の理解の再考を迫るものであり、大きな意義を有する。すなわち、基本的に政策研究と提言活動に従事しているという、従来のシンクタンク理解の再検討を迫るものであり、アメリカにおける政策専門家についての認識を大きく変える可能性を有している。その一方で、政策アイディアの生産者・提供者としての影響力と、政府高官供給源としての影響力については極めて膨大な資料・データの収集が必要なこともあり、まずはこちらの作業に専念せざるを得なかった。 また、トランプ現象をいかに捉えるかという課題も浮上した。トランプはさまざまな点で異例であるが、シンクタンクとの関係でも従来の政治家とは異なっていた。党派に関係なく、大統領候補はシンクタンク研究員の助言を積極的に受け入れる傾向があり、伝統的に共和党候補は保守系シンクタンクの全面的な協力を確保してきた。しかし、2016年大統領選挙はこのようなパターンが繰り返されたとは言い難く、トランプが助言を求めたのは一部の保守系シンクタンク関係者のみであった。また、トランプ政権で政府高官に任命された保守系シンクタンク研究員は少数にとどまっており、この点も歴代共和党政権との大きな違いである。こうしたトランプとシンクタンクの関係を注視する必要があり、今後の検討課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き基礎的資料・データの収集と、現地ワシントンDCでの聴き取り調査を行いながら、初年度の研究成果をさらに発展させるとともに、政策アイディア生産者・提供者としての影響力と、政府高官供給源としての影響力についての分析を加速させたい。 以上の研究を進める上で、当然トランプ政権との関わりについても一層の注意を払っていく。アメリカのメディアの中にはシンクタンク研究員が政府高官に起用された例が乏しいことを理由に早くもシンクタンクの地位低下を論じる声すらある。いずれにせよ、トランプ政権の動向によって、本研究が提起しているシンクタンクの三つの影響力が低下するのかどうかについても検討する必要がある。 そして、次年度では研究成果の発表にも特に力を入れたい。学会や研究会などさまざまな場を活用して、中間報告を行い国内外の政治学者のアドバイスや批判を受けながら、最終年度における本研究の完成を目指していく。
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Causes of Carryover |
本研究において、当研究分担者はアメリカのシンクタンクの政治運動としての側面について考察することを目的している。そのため、現地調査を通じてアメリカのシンクタンク関係者から新聞などでは入手できない貴重な情報を得ることは不可欠であり、初年度ではワシントンDCにおける調査を計一回実施し、右現地調査にかかる旅費に配分された分担金の多くをあてた。ただし、旅費が当初の予定額を下回ったことから、残額を繰り越すことで次年度における研究活動の一層の充実を図ることとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度もアメリカでの調査を実施する予定であり、初年度同様、旅費に分担金の多くを使用する計画である。一方、次年度は本研究の中間年にあたることから、最終年度における研究の完成をより強く意識していく必要がある。そのため、シンクタンク関係者への聴き取りを目的とした現地調査は初年度よりも多く行い、少なくとも二回は実施したいと考えている。また、初年度の現地調査はワシントンDCのみであったが、イデオロギー系シンクタンク、特にヘリテージ財団に代表される保守系シンクタンクが草の根レベルにおける活動も活発に行っている現状は軽視できないことから、次年度では地方レベルでの調査も予定している。
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