2016 Fiscal Year Research-status Report
外交史研究と合理的選択論の融合──太平洋戦争の「原因」は何か
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16K13346
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
中谷 直司 同志社大学, 研究開発推進機構, 嘱託研究員 (70573377)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山口 航 同志社大学, アメリカ研究所, 助教 (90735317)
田中 慎吾 大阪大学, 国際公共政策研究科, 助教 (80733534)
田代 和也 大阪大学, 国際公共政策研究科, 招へい研究員 (90774373)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 外交史 / 合理的選択論 / 太平洋戦争 / 戦争原因論 / 同盟理論 / 国際政治学の方法論 / 国際関係研究の方法論 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度である本年は、(1)太平洋戦争に至る国際政治過程の「始点」をどこに設定するかの検討作業と、(2)合理的選択論を中心とする戦争原因論と同盟理論を外交史研究に適用するための基礎的な仮説の演繹作業を行った。本研究は2名の外交史研究者と2名の国際政治学研究者からなり(1)を主に前者が、(2)を主に後者が分担するが、少人数であるため、どちらの作業にも4名全員が関わった。 まず最初の3ヶ月に基礎的な文献調査を実施するとともに、研究協力者のメンバー全員参加の打合せを4月と5月に行った。その上で3年にわたる研究計画全体と問題意識、解決すべき課題を確認するために、7月に、代表者の中谷直司が「「科学的」アプローチの発展に外交史(と地域研究)はいかに対応すべきか」と題して報告した。この研究会は、本研究課題に関心・知見を持つ研究者の参加もつのるため公開形式で実施した。以上の研究会では、とくに(1)国際政治研究における歴史学的アプローチの意義・課題、(2)社会科学全般を対象とした従来の方法論論争との関係、(3)伝統的な国際政治学の枠組(リアリズム、リベラリズムなど)と合理的選択論に基づく国際政治学研究の関係、(4)「科学的」アプローチの自己評価と現状のギャップを中心に多くの質問がだされ、議論・意見交換を行った。 その上で、外交史研究者を中心に満州事変期以降の資料調査と文献調査を、国際政治学研究者2名を中心に理論に関する文献調査と仮説の演繹作業を遂行した。その進捗状況については、e-mailなどで定期的に共有すると同時に、1月に再び全員参加の打合せを行い、進捗状況を確認した。 以上の結果、(1)研究遂行に必要な従来の外交史研究の整理と公刊資料を中心とした資料の収集、(2)太平洋戦争に至る国際政治史との相互検証作業に用いるべき理論的仮説の整理が概ね完了した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一年目にそれぞれ計画していた、(1)外交史・国際関係史の先行研究の検討にもとづいた、対象とすべき国際政治過程の範囲の明確化と、(2)国際政治史研究との相互検証にもとづく理論の演繹作業をおおむね実施できたので、以上の様に判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
「研究実績の概要」で述べた基礎的作業を基盤に、二年目は当初の計画に従い「同盟理論」と太平洋戦争に至る国際政治史の相互検証作業を行う。特に重要な焦点になるのは、満州事変以後の日本の国際的な孤立の深化と、その結果としてのドイツおよびイタリアとの段階的な接近、さらに1940年に締結された日独伊三国同盟が引き起こした「安全保障のディレンマ」の検証である。 そのために、まず(1)満州事変以後の日本の「国際協調政策」が、総体的な対外政策(大陸におおける軍事行動)との整合性を欠いてうまく機能しない中、同じく第一次大戦後の週案安全保障体制に挑戦するドイツと同盟する誘因を日本が強く持ちながら、実際には両国の接近が大きく遅れた原因を、同盟の形成と形成後のディレンマ(巻き込まれ徒見捨てられ之ディレンマ)に関する理論的な知見によって、どの程度説明出来るかを、従来の外交史研究の問題関心や説明と相互検証する形で、検討する。 その上で、(2)1940年に締結された日独伊三国同盟が、実質的な軍事協力の機能を欠いた同盟でありながら、日米英の開戦をもたらすに十分な「安全保障のディレンマ」をもたらしたのかいなかを、もたらしたのであればどのような原因と過程でそうであったのかを、(1)と同様のアプローチで検証する。 同時に、初年度の研究の結果、追加で必要となった資料調査・収集を国内外で実施する予定である。 以上の研究を通じて、最終年度に予定している1941年の日米英の開戦過程の検証につなげる。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは、(1)公刊資料を含む文献調査および仮説の演繹作業が予想以上に順調に推移したので、以上の作業に集中した方が計画の遂行上、有利であること(2)同時に海外を含む一次資料の調査には多額の資金が必要だが、毎年度、特に海外で資料調査を実施すると、順調に進展しつつある公刊資料を含む文献調査および仮説の演繹作業に十分な額を配分できず、かつ特に海外での資料調査も短期間にならざるを得ず効率的ではないと、研究参加者同士の意見交換・打合せで判断し、次年度に集中的に未公刊資料の収集作業を実施することにしたためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
理由で述べたように、次年度使用額は未公刊資料の収集作業に主に充当する計画である。
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