2016 Fiscal Year Research-status Report
ポスト・サッチャー時代の経済思想:競争と管理を通じた公共領域の再編
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16K13355
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Research Institution | Kyushu Sangyo University |
Principal Investigator |
平方 裕久 九州産業大学, 経済学部, 講師 (90553470)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | キャメロン政権 / 「大きな社会」構想 / 公共サービス / 福祉国家 / 公共領域 / 競争と管理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、主に1990年代から2010年代にかけての福祉国家の再編と公共サービスのあり方とその思想とを検討する研究全体の基礎的研究を実施した。特に再編期を迎えて新しい形の福祉・社会保障および公共サービスが模索される過程において、その一つの表出として捉えることのできる「大きな社会」構想に注目をして考察を深めた。また、福祉国家の再編過程や「大きな社会」構想に関する一次資料の収集をLSEアーカイブスを中心に実施した。 これらの研究成果は、「大きな社会」構想に関する論文として、部分的ではあるが、結実した。従来の福祉国家の改革・再編の議論の中心は、いかにして公共部門の費用対効果を高めるか、ということに終始していた。これに対して「大きな社会」構想では、選挙上の党利を超えた新しい公共領域についての考え方を看取することができる。既存の公共サービスと国民のニーズについて、ますます多様化し個別化したニーズを捉え、地域の実情に根ざしたサービスを開拓し提供することは財源の制約もあり、困難になりつつあると捉えられていた。 このような状況において、住民のニーズを把握した社会的企業家や慈善団体等の個人や組織が市場と公共の間に置かれた「社会」として再認識されていることは注目に値する。そのようなサービス提供を活性化するために、政府や公共部門に課せられたのは、分権化や権限移譲を進めるとともに、スタートアップとして現れる新規サービスへの資金提供者としての役割という間接的なものに限定されていたのである。 このような考え方は、公共サービスの一種の「請負」とも捉えることができる。すなわち、従来の公共サービスの改革におけるトップ・ダウン型の改革ではなく、ボトム・アップ型のサービスへの転換をも意図していたと考えられる。その意味において、新規性と独自性をもつ構想であったと捉えることができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画書において記載した実施計画に沿って調査・研究が実施され、その成果が学会報告および論文という形で結実している。また、学説的な展開を追うための資料収集にも着手しており、次年度(平成29年度)において論文として形になるように研究を実施する準備ができている。しかしながら、政策を検討するにあたり、連立与党の自由民主党の政策との整合性について十分検討することができておらず、今後の考察を深める中で検討をするべき課題として残されている。
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Strategy for Future Research Activity |
概ね順調に進展しているため、継続して研究にあたる。 進捗状況においても述べたが、「大きな社会」構想をひとつの着地点とする場合に、第1次キャメロン政権における連立与党の自由民主党の政策合意における影響についても考察する必要があり、それは研究全体を見直す段階において再度検討されるべきである。そのためには連立政権の政策合意書等の一次資料および、経済政策関係の閣僚の政策提言にも自伝等において耳を傾ける。 今後は、公共領域に関わる学説・思想研究を軸に課題が遂行されることになる。行政学や政治学の成果にも目を配りながら、1990年代を特徴づけるような経済政策の理論に焦点をあてながら考察を進めることにしたい。特に、労働党において政策アドヴァイザーとして現実の政治にも影響を与えた理論化Le Grandの理論と政策提言について政策思想史のなかに位置付けることに取り組む。
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Research Products
(3 results)