2017 Fiscal Year Research-status Report
ポスト・サッチャー時代の経済思想:競争と管理を通じた公共領域の再編
Project/Area Number |
16K13355
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Research Institution | Kyushu Sangyo University |
Principal Investigator |
平方 裕久 九州産業大学, 経済学部, 講師 (90553470)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | イギリス / 福祉国家の再編 / 公共 / 医療 / 年金 / N・バー / サッチャリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、公共領域の学説・思想の検討が課題であった。LSEの理論家たちによって展開された1990年代の公共領域の再編に関する提言・議論を追うことによってこの課題への接近が図られた。 本研究では、これまで検討してきた準市場論のJ・ルグランに加えて、同じくLSE経済学者のN・バー(公共経済学)に着目し、バーの提起した医療・年金の議論を整理し、既存の制度分析と改革提案を吟味した。彼らを「ネオリベラリスト」として整理する先行研究もあるが、詳細にバーの議論をみると、市場や競争、そして公共部門をプラグマティックに捉える姿勢が看取され、福祉国家の現代的有効性が依然として強調されていることは注目すべきである。つまりは、再編の議論が進むなかで、市場に偏重するネオリベラル的な議論には一定の変質が起こったと理解すべきである。 バーは、各国で多様な形をとる医療制度は、急速な技術革新を遂げている現代においては、公的財源中心の制度に優位性があると指摘する。医療の新技術は、財政への負担のみならず、民間保険が機能しなくなる事態も想定されるからである。年金では、持続可能な制度として積立方式の年金が有望な制度として見なされているが、どのような制度を採用しても経済循環と人口構造の変化から逃れられない、と論じた。 つまり、長期的な視点に立つと、福祉国家の持続可能性を高めるためには、適切な手段(市場/国家)を採用すべきであるということである。これらの制度が持続的に運営されるためには、確実な経済成長が重要である。変化する経済社会に適応した制度に改めつつ、有効に機能する政策を実施する、これがバー理論の中核である。この議論は、学会報告段階であり、次年度に論文としてまとめ、公刊する。 加えて、昨年度より継続して実施してきた学校教育改革を事例とした福祉国家の再編について論文としてまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、1990年代イギリスにおいて展開された経済・社会政策から「ポスト・サッチャー時代」の経済思想を析出することであり、それを福祉国家の再編という文脈のなかに照らして位置付けを明らかにするということであった。 本年度は、LSE経済学者N・バーの福祉国家、特に医療制度と年金について、に関する構想を吟味することによって政策の思想的基盤を明らかにしようとした。しかしながら、研究を進めるにつれて、彼らが経済学を学んだ1970年代における経済学・行政学等社会科学に起こった変化についてより詳細に分析をすることがこの課題をより深く理解するためには欠かせないという認識に至った。そのため論争の一方の当事者であるケインズ主義に関する資料収集と分析、とりわけA・ロビンソンに関して、を進めることにしたため、時間を要したためである。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」で既に述べたように、より深い理解のもとに課題を遂行するためには、戦後のケインズ主義についての検討を進めることが欠かせないため、全体を俯瞰する構想としてこの要素を新たに加え、考察を進める。このことは、研究初年度に議論をした国家と市場だけでなくその中間にある「社会」についても知見を新たにすることができるためである。また、N・バーはイギリス以外の諸国の制度分析も手がけていることから、オーストラリアの学会等での学会報告の機会を求め、多角的な見地からの助言を受けることを計画している。さらには、その妥当性を含め、イギリス現代史の観点からイギリス人研究者R・ミドルトン氏にコメントを求める予定である。氏とは数回にわたる国際ワークショップ等で学術交流を重ねている。 次年度が研究最終年度となることから、これまでの議論を総括するとともに、論文執筆中の原稿の公表に向けて議論を進める。
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Causes of Carryover |
研究全体の構想に新しい視点を入れる必要があったため、研究計画段階で研究協力を仰ぐ予定であったイギリス人研究者のもとでの研究打ち合わせを実施することができなかった。この点については、研究全体を総括する平成30年度夏期休業中に実施することを計画している。すなわち、新しい研究構想の全体像についてコメントを受ける予定であり、このことによってより効果的な研究となる予定である。他方で、研究計画段階で構想していた国際学会でも報告も次年度は視野に入っており、資料収集と合わせた研究全体の進捗を図る予定であり、効果的かつ効率的な研究を確実に実施する予定である。
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Research Products
(2 results)