2018 Fiscal Year Research-status Report
ポスト・サッチャー時代の経済思想:競争と管理を通じた公共領域の再編
Project/Area Number |
16K13355
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Research Institution | Kyushu Sangyo University |
Principal Investigator |
平方 裕久 九州産業大学, 経済学部, 講師 (90553470)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 福祉国家の再編 / イギリス / ネオリベラリズム / ニコラス・バー / ジュリアン・ルグラン / 準市場 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究は、前年度に着手したイギリスLSEの経済学者ジュリアン・ルグランとニコラス・バーの所説を検討し、福祉国家の再編における理論的基盤について議論することであった。ルグランとバーはともに1990年代に本格的な議論を展開しはじめたが、公共領域の改革における理論を提供しているだけでなく、政策形成においても重要な役割を担っており、理論の開拓に加えて理論と政策とを結びつける役割をも担ってきた。かれらの研究を議論することによって、政策と理論の両面において再編期のイギリス福祉国家を理解することになる。 ルグランとバーの研究は、隣接する領域の議論においてそれぞれ公共部門のあり方について検討を続けてきた。また、政府等のアドバイザーとなったことから公平や平等といった福祉国家の価値を重んじる論者からはネオリベラルと批判的に理解されている。たしかにルグランは準市場を通した効率的運営のあり方を検討したし、バーにおいても公共部門に限らず広く福祉・社会保障のあり方について論じており、サッチャリズムの改革を受けた議論であると言える。他方で、両者の議論が、より精密に市場の制度を考察している点には注目すべきである。つまり、効率の達成という観点から市場や競争の導入を論じるだけでなく、その弊害を抑えつつ安定的に運営される制度設計をしているということである。いかなる設計をするかという観点から議論されており、再編期のアイデア・思想のプラグマティックな実現方法を論じたということができる。すなわち、ポスト・サッチャー時代のかれらの議論を経て再編後の福祉国家像が形成・展開されてきたと理解すべきである。 より長期的な戦後の福祉国家形成から再編への展開のなかで歴史的意義を究明するためには、時代の射程を広げた検討が必要であるが、それは次年度に残さざるを得なかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、最終年度にあたる本年度は、政策と理論における議論を総合させて、再編の議論をポスト・サッチャー期の経済思想として特徴づけることを計画していた。本年度の検討では、個別の論者の議論を取り上げるところまでは研究報告として形にすることができたが、研究論文としての結実には至っていない。この点については、研究期間の延長をお願いし、次年度に結実させる。 また研究を進めていく上で、議論をより相対化して理解するためには、研究実績の概要においても言及したが、時代の検討射程を延長する必要があることも明らかになった。そのため、福祉国家の安定期である1960年代の議論についても改めて検討し、総合した上で、一定の結論を導きだす。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、現実から理論や思想、理論や思想から政策と補完的に展開された福祉国家の再編を思想史において位置付けることを目標としている。現状、政策と理論の検討については個別に進めており、その総合的に整理し、相対化して理解することが次の課題となるように思われる。サッチャー政権の改革を受けた政治と学術における変化・展開を追うだけでは十分な理解をするには不十分であることを研究遂行のなかで感じるようになったため、議論の射程を福祉国家の安定期との比較のなかで議論を構築することを検討している。この議論の射程を広げた検討の妥当性については、イギリス人のイギリス現代史研究者から助言を受け進める予定である。
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Causes of Carryover |
本年度の研究は一定の研究報告をすることができたが、体調不良による療養と研究進捗のなかで浮き彫りになった課題の2点から計画を変更せざるを得ず、次年度使用額が生じた。まず、体調不良のため研究開始時に計画していたオーストラリアにおける学会報告を延期せざるを得なかった。この研究報告については、次年度(2019年度)のコンファレンスにおける報告希望が受理されており、実施できる見込みとなった。また、研究を進める上で、概要等にも記載しているが、議論の期間を広げる必要があることが明らかになった。そのために新たに講読する必要のある研究資料のために使用される。後者の研究は、前者の学会報告にも反映されることになっており、研究全体のブラッシュアップにつながると思われる。
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