2017 Fiscal Year Research-status Report
介護離職ゼロに向けた介護従事者の職務意識と質的マネジメントの向上に関する研究
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16K13382
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Research Institution | Shiga University |
Principal Investigator |
澤木 聖子 滋賀大学, 経済学部, 教授 (40301824)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 介護人材の慢性的不足 / 働き方改革 / 在宅介護者への両立支援策 / 総合事業化の課題 / 地域包括ケアシステム / 訪問介護士の離転職要因 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題について、平成29年度は次の通り研究計画を遂行することができた。まず、昨年度来の文献レビューの継続実施である。 1.文献調査と理論的枠組みの構築については、介護保険制度制定2000年前後の文献を中心とした介護人材に関する文献レビューを行い、介護の労働市場、介護福祉学、家族社会学等の諸領域の先行研究を踏まえ、介護白書、厚生労働省所管の研究機関の働き方改革に関する資料収集と整理に加え、在宅介護を取り巻く地域包括ケアシステムに関わる記事、介護保険の改定に伴う最新情報の収集を続けた。また、2.介護事業所で働く訪問介護士の離職者、転職者を対象に、在宅介護を支えるヘルパーとしての職務行動に伴う意識や課題についてヒアリングを行った。職務満足に関する二要因理論に依拠すれば、職場での人間関係、要介護者や介護家族とのコミュニケーションにおいて、承認欲求の充足などプラスの感情的な経験が重なることにより、強い動機づけ要因として大きく作用することが導かれた。また、一方で事業所からの研修内容(教育訓練)と現場で必要とされる技術との乖離、職場の慢性的な人材不足による勤務形態の変更や管理責任者の方針による労働の過重負担、賃金など処遇に関する改善が見られないことが、職務不満足の増幅を生み、離転職行動の主要な原因となることが明らかにされた。今年度の活動の主要目的であった一般企業を対象とした介護休業、休暇の取得に対する実態調査については、愛知県の主要産業である自動車関連製造企業の人事担当者にヒアリングを実施した。この企業調査は、政府の「働き方改革」の立案が企業の人事施策に与える影響を見越しながら予定されていたものであるが、年度内に可決されなかったことから、企業調査を次年度(平成30年度)に継続することと変更した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成29年度においては、当初想定していた「働き方改革」の国会通過が遅れていたことによる企業調査の見合わせ以外、計画した内容をほぼ遂行できたと考える。年度の目的は、1.介護人材に関する先行研究や報道資料の整 理、2.情報収集と整理を通じた「介護離職」に関わる概念整理と本調査研究のフレームワークの精緻化、4.インタビュー本調査の質問項目の作成、5.介 護事業所および介護をする有職家族が勤務する企業へのインタビュー調査、6.インタビュー調査のデータ整理と学会における成果発表、の6つをあげた。これらのうち、5.の後半である在宅介護に従事しながら働く有職家族が勤務する企業へのインタビュー調査につ いては、コーディネート中である。企業調査をパイロットスタディとして実施た結果、企業の人的資源管理施策の中で、中高年齢層の社員が直面することの多い介護への支援策や福利厚生の実施状況は、比較的若年層の社員を対象とする子育て支援とは異なり、人材マネジメントを質的に向上させる意図とは反目しやすい側面を有していることが見えてきた。また、昨年度来国会で議論が揺れた「働き方改革」の裁量労働制等の議論とも関連する内容としてフレームワークを設計してきたため、企業の両立支援策への影響過程を分析する上では、予定通りのタイムスケジュールで研究を遂行することが阻まれる事態となった。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に残した、1.企業へのインタビュー調査及び質問紙調査、2.在宅介護をしながら働く有職家族、また要介護者を対象とした取材、この2つを中心に調査研究を行う。研究計画を延長した上での最終年度に当たるため、インタビュー調査の補足的調査、質問紙調査を続行していきたい。また、調査結果のデータを整理し、研究成果のまとめを目標とする。 また、3.研究期間全般を通じて得られた調査結果に基づき、研究の問題意識に対する解を求め、働く個々人の実態を浮き彫りにしながら、介護離職を防ぐために有用な企業の人的資源管理策について議論する。昨年度に進めることができなかった研究成果の公表は、多くの研究会や所属学会の場で報告できるように準備をする。また、調査協力を得た介護事業所や企業に対して、働く個々人向け調査の概要や得られた結論を併せて報告書を作成し、フィードバックを行う。 以上が、本研究課題の今度の研究推進計画である。
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Causes of Carryover |
理由) 平成29年度に計画していた全体予算のうち、企業調査の際の交通費、質問紙調査表作成費用、調査対象者への謝金、データ整理における研究補助者への人件費が発生しなかったため 、執行過程において次年度使用額が生じる結果となりました。 (使用計画) 次年度においては、企業、個人等へのヒアリング調査、会場費、新たな文献調査費用を含む物品費(図書・データ・資料代)として計上することを予定しています。
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