2017 Fiscal Year Research-status Report
「核のごみ」の最終処分をめぐる社会的対処の前進に資する合意形成モデルの構築
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16K13413
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Research Institution | Kyoto University of Education |
Principal Investigator |
土屋 雄一郎 京都教育大学, 教育学部, 准教授 (70434909)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 環境社会学 / 放射性廃棄物処理問題 / 合意形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
エネルギー政策に対する社会的関心が飛躍的に増大し、原子力発電の是非をめぐっては、様々な立場から議論が展開されている。たとえ社会が原発ゼロ社会を選択したとしても、原発を灯し続けてきたことによって生じた「核のごみ」の処理・処分をめぐる問題から逃れることはできない。 とりわけ、NIMBY(Not-In-My-Backyard;ニンビィ)を争点とするような、いわゆる「迷惑施設」の立地をめぐる環境紛争を対象に、地域の意思決定が生活の文脈から切り離され個別化された課題や領域ではなく、日常世界の日々との対応と連動した全体性を帯びたものであることを示し、「公共の正義」と「ローカルな正義」との接合する接合知のあり方について議論を深める必要がある。 そこで本研究では、地層処分に関する技術的・工学的研究が進展するなかで、立ち遅れてきた放射性廃棄物の処理・処分問題への社会的対処を前進させるための合意形成に資する条件とモデルを提示するための基盤となる研究(おもに文献調査とフィールドワークによる調査)を実施した。 本研究は、理論的支柱の形成、フィールドワークによる調査、政策提言に向けた議論によって構成されるが、本年度においては、研究の第二ステップとして、国内の数か所において事例調査を実施、海外事例との比較のための文献調査を進めながら、放射性廃棄物の処理・処分をめぐる社会的対処の前進に関わる問題点を明らかにするために環境年表の作成に取り組んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の進捗状況の点検、評価の観点は次の4点にまとめられる。 (1)環境リスク(負の価値)をめぐる社会的配分と意思決定に関する研究史の整理をおこなうとともに、研究対象を環境社会学・社会学分野を中心に人文・社会科学領域の隣接分野に広げる。(2)国内事例の調査を実施。具体的には、静岡県御前崎市(旧浜岡町佐倉地区)において、地域社会が半世紀にわたり原子力発電所とどのように向き合ってきたのかを地元住民が残した資料や交渉記録等の分析から明らかにする。(3)散逸してきた事例を総合的に網羅するために、放射性廃棄物の処理政策および紛争事例に係る環境年表を作成するとともに、これを補強しながら放射能リスクに対する社会的受容を争点にした意思決定の阻害要因を析出する。(4)海外における事例の文献調査やフィールド調査を計画し実施することで、環境リスクの配分と社会安全との「共生の再構築」をめぐる理論的検討に照射させる、である。 このうち、(1)と(3)についてはおおむね順調に進めることができたが、(2)および(4)については、計画どおりの十分な進展がみられなかったため、全体の進捗状況としては「やや遅れている」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題を達成するために、第一に、環境リスク(負の価値)をめぐる社会的配分と意思決定に関する研究史の整理を踏まえ、環境アセスメント制度の到達点と課題を整理し、これらを当該問題に展開していく上での問題点を明らかにすること。第二に、旧浜岡町佐倉地区に残された資料および交渉記録の整理を進めるとともに、関係者への聞き取り調査を実施すること。そして第三に、海外でのフィールド調査を実施(2018年度夏を予定)する。 これらの研究課題を推進することによって、本研究が構想する「戦略的社会環境アセスメント」を新たに構想するうえでの理論枠組みを検討し、不可避である放射性廃棄物の処理・処分をめぐる社会的対処を前進させうる条件を提示したい。
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Causes of Carryover |
(理由) 海外事例の調査において、受け入れ先の都合により計画どおりの実施ができなかったこと、また、実施国内事例の調査においては、調査対象地との調整が遅れ実施回数が当初計画よりも下回ったこと、また海外文献の調査については、十分な進展がみられなかったため。 (使用計画) 調査等が計画どおり実施できるよう準備を整え、国内、海外における事例調査の旅費や謝金等として使用する。
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