2017 Fiscal Year Research-status Report
法律相談の相互行為分析-対話的相談時代の専門職間コミュニケーションの研究
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16K13421
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Research Institution | Kobe City College of Nursing |
Principal Investigator |
樫田 美雄 神戸市看護大学, 看護学部, 准教授 (10282295)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
米田 健一 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 教授 (20283856)
北村 隆憲 東海大学, 法学部, 教授 (00234279)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 即時分析 / 法律相談 / 相互行為分析 / エスノメソドロジー / 会話分析 / 法務部 / 弁護士 / 専門職 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,「即時分析(相互行為分析の高速版)」という新手法で,日本における「法律相談」の21世紀的状況を,「専門職-専門職」関係という新視点から,明かにすることであった. 平成29年度も,この立場から,科研メンバー全員が集まっての研究会を3回開催し,リアル法律相談の撮影,模擬法律相談の撮影,それらの動画データを用いた簡易分析のプレゼン,さらに,後日(2017年12月27日および2018年1月27日)には,綿密な分析をベースとした研究発表を,被写体である弁護士(被調査者)に聞いてもらい,本人からの意見聴取を行った.このスパイラルな調査の結果,以下の大きな達成をえることができた.すなわち,①当事者的説明を深層の水準で引き出すことに成功した,②研究者的説明を,当事者の深層の水準の説明を組み込むことでバージョンアップすることに成功した. 現在,この成果を2018年5月に開催される『日本法社会学会大会』で発表するべく準備中である. この発表に関して得られたコメントをもとに,改訂したものについては,まず,科研費報告書にとりまとめ,さらに,予定が若干遅れているが,出版に向けて再編集する予定となっている.その際には,読者自身が,この「スパイラルな研究展開」を追体験できるよう,科研費報告書に添付のDVDには,調査時のトランスクリプトを掲載する予定である. この全体は,世界でも初めての,法律相談に関する「ビデオ・エスノグラフィー」の研究成果となるため,来年度中には,国際学会にエントリーする予定としている. 商業出版社からの出版計画部分については,若干の遅れが見て取れるが,他の領域に関しては,順調に進捗しているといえよう.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017年度の夏には,樫田も含めた全員(科研研究の代表研究者と分担研究者の全員)が集合する形で,鹿児島大学合宿(3泊4日)を行った.機材(ミーティングレコーダー3台,ビデオカメラ2台,デジカメ2台,ICレコーダー3台)を効率的に行いながら,リアル法律相談,模擬法律相談を,約10時間撮影し,さらに,それらのデータを用いた「即時分析」による研究会風景の撮影をさらに約10時間撮影した. この大量のデータは,樫田研究室のトランスクリプト作成システムによって,まず主要部がトランスクライブされ,その成果にもとづいて,2017年12月27日(at鹿児島大学東京サテライトオフィス)と2018年1月27日(atルノアール・マイスペース東京神田南口駅前店第二会議室)に,当事者(被撮影弁護士)参加による「データセッション」(ビデオデータを,トランスクリプト付きで上映し,研究者が解釈を述べたあと,当事者が感想を述べる形での研究会)を開催した.この成果は絶大で,被撮影弁護士(コミュニケーションに課題があると本人自身が感じている弁護士)の「下向き視線」や「言いよどみ」等にそれなりの合理性があることが明らかとなった.これらは,研究者の状況説明の改変プロセスに組み込まれ,より洗練されたデータ解釈が可能となった.その結果,これまでの「文脈非感応的助言(個別の文脈の微妙さを無視した,コミュニケーションに関する助言:たとえば,なるべくクライエントの意見を否定しないように,という助言や,クライエントの顔を見ながら話すように,という助言)」が,不適であること(場合によっては,クライエントの顔を見ないことに合理性があること等)が明らかになった.
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者である樫田は,日本保健医療社会学会長,日本医学教育学会プロフェッショナリズム・行動科学委員会委員および,日本福祉社会学会研究委員会委員として,他学会と連携して,専門職コミュニケーション(医療専門職や福祉専門職と市民のコミュニケーションおよび,医療専門職や福祉専門職と他の専門職とのコミュニケーション)の教育改革をするべく,活動中である.研究分担者の米田は,日本法社会学会理事および日本臨床法学教育学会理事として,法律相談および法律相談教育の,両学会での改善活動プログラムを構想する立場にあり,ほぼ樫田と同様の活動をしている.このように諸学会の活動に影響を及ぼせる立場に,研究代表者および研究分担者が立っていることを活用して,諸学会の活動とリンクした形で,本科研チームの成果の推進を図っていきたい.具体的には,まず,5月26日に日本法社会学会大会で,ミニシンポジウム3として「法律相談と法的交渉研修のビデオ・エスノグラフィー-その理論と実際」を樫田が主宰して実施する.このミニシンポジウムに関しては,被撮影弁護士にも登壇していただき,簡易なデータセッションを学会大会の場で実現させる.その様子自身をさらに撮影し,分析素材とする.この成果の全体を,年度内に科研費報告書にまとめて,公開するとともに,その主要部については,各種学会(国内・国外)で発表する.科研費報告書は,可能な限り,WEBでも公開し,他学会関係者の閲覧に供し,諸専門職の共通課題として,「専門職コミュニケーション問題」を考えてもらうきっかけとしていきたい.
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Causes of Carryover |
トランスクリプト作成担当の学生アルバイトの一部が,就職活動のため,予定した労働を年度内にこなすことができなかった.けれども,その遅れを取り戻すよう相談しながら作業日程を4月と5月に組み直しているので,研究の進捗には深刻な影響は及ぼさない見込みである.2018年度は,これまで洗練してきた方法(即時分析+即日のデータセッション+精密な分析+後日のトランスクリプト付きデータセッション)を5月の法社会学会で学会発表するので,そのための旅費・資料作成費がかかる.また,科研費報告書のとりまとめのために,経費が必要である.
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Research Products
(5 results)