2016 Fiscal Year Research-status Report
原発立地地域等における中長期的避難・受け入れ計画の構築に向けた研究
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16K13426
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
野呂 雅之 関西学院大学, 災害復興制度研究所, 教授 (40755873)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 原発立地地域 / 緊急時防護措置準備区域 / 避難計画 / 多地域居住 / 避難の権利 |
Outline of Annual Research Achievements |
原発立地地域である全国13地域における避難計画の検証と課題の洗い出しを進めるため、原子力施設からおおむね30キロ圏内の緊急時防護措置準備区域(UPZ)にある21道府県135市町村の地域防災計画(原子力災害対策編)及び避難計画を収集し、避難計画の類型整理にあたった。 それと並行して新しい地方制度の構築を目的に、国内外で災害による広域かつ長期避難の研究にあたっている学者や東京電力福島第1原発の事故で避難している被災者らで構成する関西学院大学災害復興制度研究所の研究会で、多重的自治体や広域市民の制度研究を進めてきた。 研究会では個別の課題について専門的知見のある法学・社会学の研究者や官僚、新聞記者らを招き、具体的なテーマとしては「公害問題の教訓から学ぶ原発避難者救済の課題」「EU市民の移動に関する権利」「避難民の住所・居所と多地域居住の制度化」「原発事故賠償訴訟の現段階」「核害被災者の多(他)地域居住」「伊方、福井における原発事故を想定した訓練からみえる避難計画の課題」「原発事故における避難の困難性について」「原発災害避難住民の『二重の地位』の保障」などを設定して制度研究を重ねた。 海外における核被害の事例研究も手がけ、公開シンポジウム(核被害による長期避難の実相~チェルノブイリとマーシャル諸島に学ぶ~)の形で研究会を開催した。ロシア研究者の尾松亮氏がチェルノブイリ原発事故から30年後の被災者の「移住権」と「居住者の権利」について報告し、中京大学社会科学研究所特任研究員の中原聖乃氏は半世紀前の米国による核実験で汚染されたマーシャル諸島の人々の避難島での生活再建について報告した。海外の核被害地から汲み取るべき行政上の仕組みなどの解明を進め、当該シンポジウムの研究報告をまとめた冊子を発行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の年次計画として、1)緊急時防護措置準備区域(UPZ)の自治体の避難計画収集と課題の洗い出し、2)多重的自治体や広域市民の制度研究を挙げていたが、1)については当該地域の21道府県135市町村を対象に、個別に避難計画作成の有無を確認したうえで、作成済みの自治体の避難計画はすべて収集し終えた。課題の洗い出しにあたっては、避難計画そのものが「机上の空論」と思われる内容のものもあることがわかり、特定の地域を選んで具体的な課題を摘出する必要性があると考えている。 2)については、二地域居住に関する権利という観点から、国内外で「二重の地位」に関する事例研究をまず手がけることにした。高度経済成長期に深刻化した公害による被害と原発被害との賠償のスキームの共通項と相違点を洗い出すことからはじめ、国境をまたいで平時から移動を繰り返しているEU市民における二地域居住の仕組みや、多地域居住の権利に関する先行研究をしている学者や官僚らを研究会に招いてヒアリングを重ねることで、二地域居住にかかわる課題の洗い出しができた。 また、2)の海外事例に関して平成28年度は専門家からのヒアリングとしていたが、公開シンポジウムの形でチェルノブイリ原発事故後に避難都市として建設されたスラブチチ市の行政上の仕組みや、米国の水爆実験で汚染されたマーシャル諸島・ロンゲラップ共同体の自治権や財務面などから避難の仕組みを解明することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
原発立地地域のうち、すでに再稼動している川内原発や伊方原発などの地域で、避難計画の実効性を検証するため住民を対象にアンケートを行い、「机上の空論」と思われる自治体作成の避難計画の具体的な問題点を洗い出す。それに基づいて当該原発の立地地域にある自治体の首長、議長のインタビューを実施するとともに、立地地域の自由度について調査する。 首長、議長インタビューでは上記避難計画の問題点に対する認識をただすだけでなく、福島原発事故で議論されたセカンドタウン、町外コミュニティ、二重住民票の周知度や必要性などについてもヒアリングし、実効性のある避難計画のモデル構築につなげる。 二地域居住にかかわる事例研究を引き続き進め、海外事例ではEUの研究者を中心にヒアリングを進める。国内事例ではa)季節によって生活の拠点を変える季節移住である「夏山冬里」の現地調査、b)新潟県中越地震で大きな被害を受けた長岡市の旧山古志村の仕事で通う「昼間村民」の仕組みを移植するための現地調査などを実施する。 平成28年度に収集したUPZにある21道府県135市町村の避難計画から各自治体の避難先を調べて、避難先の自治体の避難者受け入れ計画を収集して分析する。そのうえで、UPZにある自治体の地域防災計画や避難計画、避難者受け入れ計画について、原発立地地域の住民と避難先の住民を対象に、中長期避難の計画の必要性などについてアンケートを行う。個別避難者については、避難先と避難元で二重の住民票を保持できる「準市民制度」や「二重住民票」に基づく広域市民制度の構築に向けた制度の周知度や必要性に関しても調べる。
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Causes of Carryover |
平成28年度に現地調査のため出張に行く予定だったが、現地協力者との日程調整の結果、次年度に行うこととしたため、残額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度に予定していた現地調査を平成29年度に実施するため、出張旅費として使用することを計画している。
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