2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K13455
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
高橋 伸幸 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (80333582)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 協力 / 信頼 / 互恵性 |
Outline of Annual Research Achievements |
人間社会において信頼が重要な役割を果たすことを主張する研究は数多い。その中で、90年代後半から信頼研究の焦点の一つとなってきたのが「信頼の解放理論」(山岸, 1998)である。山岸は、他者一般の信頼性の推定値である一般的信頼が社会のあり方と不可分であり、一般的信頼のレベルの社会差はニッチ構築の一環として解釈可能であることを、理論、実験、調査など複数の手法を用いて明らかにした。しかし、信頼研究の流れにはもう一つ、二者間において信頼関係を構築するプロセスについての研究があり、一般的信頼のようなマクロな信頼との関連は未だ明らかにされていない。本研究は、信頼研究のこれら二つの流れを統合することを試みる。 28年度は、マイクロな信頼関係形成場面において相互協力を達成することが持つ意味を検討する予定であった。信頼の解放理論によれば、二者間で繰り返し相互作用を行う状況で相互協力が達成されても、相手に対する信頼は生まれないはずである。なぜなら、そのような状況では相互協力か相互非協力以外の帰結は存在しないため、信頼性の高低にかかわらず、どんな人でも協力するはずだからである。即ち、「安心」は「信頼」を生み出さないのである(山岸, 1998)。本研究はこの主張に挑戦するため、実験室実験を試みた。実験状況としては、先行研究において極めて高い協力率が達成されることが分かっているリアルタイム依存度選択型囚人のジレンマ(寺井・森田・山岸, 2003)を用い、最後に一回限りの同時依存度選択型囚人のジレンマゲームを加え、相手をどの程度信頼するかを測定した。しかしながら、条件操作に概念上の問題があることが明らかになったため、条件操作を再検討する必要が生じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、信頼研究の二つの流れに焦点を当てた実験研究と理論研究を行うことで、マイクロな信頼という現象の説明にはマクロな信頼の説明原理とは別の理論体系が必要である可能性を追求することを目的としている。28年度は、実験室実験を行い、マクロな信頼の説明原理である信頼の解放理論からは説明できない現象が生じることを示す予定であったが、実験操作に概念上の問題があることが判明したため、デザインを再検討することとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
29年度はまず、28年度に再検討が必要となった実験を実施する。再検討は既に終了しており、デザインも確定しているため、すぐに実験を開始することができる。その後、29年度は、信頼関係形成場面において、信頼する側の信頼感とされる側の信頼性の間の相互影響過程を検討する実験室実験を行う。これまでの研究の多くは、信頼する側では高信頼者といった認知・心理特性としての信頼感を想定していたが、それでも常に同じ行動をとるのではなく、相手によって信頼するかどうかを調整することが想定されていた。これに対し、信頼される側の信頼性は完全に個人特性として捉えられており、例えば信頼性の低い人はどのような状況であってもどのような相手に対してでも裏切る傾向があると考えられていた。しかし、信頼関係を形成していく過程をコミュニケーションであると考えるならば、信頼性はこのように定数として扱うのではなく、相手からの働きかけに応じて動的に変化する変数であると捉えるべきであろう。そうすることにより、信頼関係の形成が予言の自己実現と同様の原理で生じる可能性を検討することができる。即ち、最初に相手を信頼して自分の身を委ねることにより相手の信頼性が上昇し、より自分の身を委ねやすくなり、という正のフィードバックループが存在する可能性である。そこで29年度は、被験者内要因として参加者が相手から信頼された程度を操作し、その信頼に応える程度が異なるかどうかを検討する実験を行う。これにより、信頼感と信頼性の間の動的関係の解明に向けて、前進することができる。
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Causes of Carryover |
28年度は、実験操作の一部に概念上の問題があることが分かったため、実験デザインを再検討する必要が生じた。それが終了した時点では多くの実験参加者をリクルートすることが困難であったため、実験開始が29年度はじめになってしまった。次年度使用額が生じたのはこのためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
29年度には、28年度に予定されていた実験を改良した実験を行う計画であり、そこでこの繰り越された予算は消化される予定である。
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