2016 Fiscal Year Research-status Report
「成功した校長」の国際比較研究-オーストラリア・ニュージーランド・日本を対象に-
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16K13515
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
佐藤 博志 筑波大学, 人間系, 准教授 (80323228)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 成功した校長 / 理論研究 / 事例研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、まず、「成功した校長」に関する理論研究を行った。日本語及び英語のすべての関連する文献を入手し、検討した。その結果、次のことが明らかになった。日本語の文献では、「成功した校長」に関する先行研究は一切ない。また、校長研究全般においても、日本においては、一般的な傾向を調べることが中心であり、事例研究それ自体も少ない。これに対して、海外においては、一般的な傾向の調査だけでなく、事例研究も盛んに行われている。そして、「成功した校長」に関する研究も進められている。特に、時系列的な変容が調べられている点は特筆すべきである。だが、課題として、異なる地域の学校の校長の比較は容易ではない。各国比較においても、世界規模での比較を行っているため、抽象度が高い等の点が明らかになった。いずれにせよ、日本では「成功した校長」に関する研究が行われていないため、本研究の意義が明確になった。これらの理論研究をふまえて、インタビューガイドを作成した。インタビューガイドにおいては、成功のストーリーを聞き取るとともに、校長の価値観や哲学も聞き取るものである。類似のインタビューガイドは存在しないため(また、英語の既存のインタビューガイドは抽象的であるため)、何度も練り直して作成した。 平成28年度では、理論研究に加えて、事例研究に着手した。まず、オーストラリアにおける調査を行った。次に、日本で、対象を義務教育段階に設定し、自治体A市で、公立小学校2校、公立中学校2校を訪問調査した。一次資料を入手するとともに、聞き取り調査を行った。聞き取り調査結果は原稿に起こし、初期的な検討は行った。これらの聞き取り調査では、豊かな内容のデータが得られた。傾向として、いずれの校長も、自身の哲学を持っており、成功へのストーリーを経験として持っていることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた通り、理論研究を相当に遂行できた。理論研究の成果は、査読付き論文(佐藤博志・高橋望・山田知代「「成功した校長」に関する研究の動向・到達点・課題-海外と国内の先行研究の検討を通して-」『筑波大学教育学系論集』第41巻第2号、2017年3月、1-19頁。)に著すことができた。この論文は、日本で初めての「成功した校長」に関する研究論文であり、オリジナリティがある。研究代表者と連携研究者の間でも、分担を適切に行い、討議を経て着実に検討を進めることができた。 オーストラリアを訪問し、現地の学校において聞き取り調査を行った。オーストラリアにおいては、校長の裁量が日本よりも大きいため、学校経営の工夫は日本よりダイナミックに展開している。しかしながら、教職員の力量形成や協働体制の構築に工夫している点は、日本と類似していた。また、ニュージーランドの学校経営の情報を部分的にではあるが、入手することができた。 平成28年度後半には、事例研究に着手できた。事例研究を分析し、論文にすることが今後の課題ではある。訪問先の学校では、充分なデータを入手できた。平成28年度中は、事例研究を行うことに留まり、論文の作成までの時間的余裕はなかった。とはいえ、平成28年度内に、研究方法上の検討も文献等を通して行った。事例研究で得たデータを分析する枠組み(方法論)をおおよそのところまで、検討することができた。だが、ひとまず、事例研究を行い、最初のデータを得られたことは、本主題に関する調査の経験を得て、今後の発展につなげるためにも、有効だったと考えられる。日豪間を比較すると、制度上の相違があるものの、成功した校長は、「人間関係」を重視し、過去の経験から学んでいることが明らかになった。以上のことから、おおむね、順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、平成28年度に得た既存のデータを用いて、論文をまとめることが必要である。そのために、質的データの分析方法として、グラウンディッドセオリーの活用可能性を検討する。グラウンディッドセオリーには多様な流派があり、学校経営、教育経営分野では先行研究も少ない。したがって、研究方法について論文の方法論部分で丁寧に記述する必要がある。 第二に、平成28年度とは別の自治体の学校を選定し、調査を行うことが必要である。すでに別の自治体の候補地は選定している。また、聞き取り対象者の選定方法についても検討済みである。今後具体化していく必要がある。もちろん、平成28年度に対象とした自治体において、引き続き調査を行う可能性もある。状況を見ながら検討し、適切な方法を考案する。研究を進めることによって、自治体間における比較が可能になるではないか、と考えている。インタビューガイドは、平成28年度中に開発したものを活用する予定である。ただし、文献検討などを通して、必要があれば、インタビューガイドの部分的な改善も柔軟に行う予定である。 第三に、インターナショナルスクールにおける調査も、可能であれば行い、公立学校とそれ以外の比較を行うことも興味深いのではないかと思う。制度上の違いもあるが、インターナショナルスクールは、キャリアバックグラウンドが日本とは異なる。比較を通して、共通点が見出せれば、傾向として捉えられる可能性があるし、差異点が多ければ、多様性が大きいことになるだろう。日本の状況を相対的に理解し、質の高い考察につながっていくと考えられる。データを用いて論文をまとめることも必要である。論文を執筆するとすれば、7月頃には構想を始めたいので、適切に研究計画を立てて進める。
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