2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K13533
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Research Institution | St.Margaret's Junior College |
Principal Investigator |
高橋 舞 立教女学院短期大学, 幼児教育科, 専任講師(任期制) (50735719)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 戦争の記憶 / 継承 / 共生知 / 生の技法 / 教育メディア / 戦争記憶空間 / 不在の人々 / 分有 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は1.日韓の戦争記憶空間をフィールドとしたメディア研究、2.「戦争の記憶」継承に深くかかわる人物の史資料やインタビユー・聞き取り調査を通し、「戦争の記憶」継承という〈生の技法〉が共生知として体得される過程を解明し、その存立条件を抽出しようとするものである。1.に関しては、平成29年度は韓国フィールド調査は実施せず28年度実施の調査内容の分析と整理を行い、フィールド調査としては、沖縄へのフィールド研究を集中的に実施した。具体的には、研究調査協力をいただいている沖縄県立平和祈念資料館で開催された、沖縄県内の博物館・美術館大会参加(29年4月)、残波の大獅子・チビチリガマ・恨ノ碑など、本研究における2.の人物調査の中心人物である反戦彫刻家・金城実氏が制作した作品及び、設置、展示されている場の非参与・参与観察(29年4月、6月、30年3月)、本研究の問題意識となっている不在化された人々の想起のための実践団体といえる強制連行究明ネット主催の第11回強制動員真相究明全国集会・沖縄(30年3月)に参加すると共に、南部戦跡および、読谷の戦争記憶空間の非参与・参与観察などを実施した。 2.としては、主に金城実氏、金城氏と関わりの深い知花昌一氏の2人物を中心として、継続的にインタビュー・聞き取り、および2人の「戦争の記憶」継承実践として繰り広げられる人々との交流を同行取材・参与観察した。この他、「戦争の記憶」と深くかかわるハンセン病差別について、共生知としての継承を実践している人物である金正美氏への交流・聞き取りも実施した。 以上の研究、調査研究を通して、戦争モニュメントや戦争アート作品など、戦争記憶が戦争記憶装置化される際の意義や課題、および、それらが共生知となる存立条件について深い示唆が得られ、共生知体得を基軸とする教育実践理論創生に必要な諸概念を整理することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、平成28年度までの所属先における週2日契約による専任講師という勤務を前提とした計画であったが、平成29年度より所属が変わり新たな環境に適応する必要があった上、常勤となったために、仕事量がこれまでよりも大幅に増加し、当初想定していたフィールド研究やその成果報告のボリュームは必然的に縮小せざるを得なくなった。とくに、通訳の同行など、実施のための準備に時間を要する韓国へのフィールド調査が実施できなかった。しかし28年度中におこなった韓国フィールド調査の整理・分析および、予定通りの実施ができた沖縄へのフィールド調査において、研究計画時に想定した以上の時間をあてて細やかに進めたことにより、当初の予想を超える豊かな成果を得られた。したがって、今後はこれまでの調査の成果を言語化して学会発表・論文発表に備え、加えて30年度の韓国・沖縄へのフィールド研究をさらに充実させることで研究遂行にはなんら支障はなく、より有意義な研究成果を生み出せると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
1.平成29年9月に青少年によって荒らされた集団自決ガマである読谷村・チビチリガマの、戦争記憶空間としての再生化作業過程を分析し、戦争記憶空間が、これまで以上に共生知として継承される有効な教育メディアとなる可能性を持つための条件を抽出する。 2.「平和の礎」の北朝鮮・韓国人の刻銘数の少なさに象徴される「戦争の記憶」から不在化される人々の傾向を抽出すると共に想起の在り方を解明する。 3.2015年から始められた、韓国・元「従軍慰安婦」の老後施設および歴史館を併設する「ナヌムの家」の、戦争記憶空間化のためのリノベーションの風景変化の分析から、「戦争の記憶」が記憶空間化される際の意義と課題を抽出する。 4.「継承」と「共生」の概念を原理的に問い直すことでその間にあるものを解明し、「戦争の記憶」継承という〈生の技法〉が共生知として体得されるための条件を抽出する。 5.日韓交流の懸け橋となっている日韓に建てられた「恨之碑」(金城実氏制作)の戦争記憶空間としての意義や課題を検討し、「戦争の記憶」を被害者と加害者で共に持つ=分有することの意義と可能性を明らかにすると共に、このような分有としての「戦争の記憶」継承がいかに可能になったのか、その条件を抽出する。 以上の調査研究を通して得られた成果を学会発表・論文化して公表していくと共に、これらをまとめ「戦争の記憶」を共生知として体得する教育実践理論を創成したいと考える。
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Causes of Carryover |
平成29年度より新しい所属先に異動し、仕事の形態も2日勤務から常勤となった。このように、大学教員としての仕事量が激増し、韓国のフィールド研究(29年度2回予定)、「文字おこし」などの、使用額が大きい研究活動を次年度に持ち越したため未使用額が生じたが、職場にも慣れ環境が整ったこと、また、主要研究対象先である「ナヌムの家」のリノベーションも進行中の過程にあり、研究成果をまとめる上でも、変化の状況を観察する必然性があるため、29年度に予定した韓国フィールドワーク(2回)の実施を予定する。また、29年度末(3月)に実施した沖縄フィールドワークにおけるインタビューや聞き取りの文字化などの作業は、本年度に行う予定であり、これらによって29年度までに生じた未使用額は、全額執行する計画である。
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