2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K13573
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Research Institution | Hyogo University of Teacher Education |
Principal Investigator |
河内 勇 兵庫教育大学, 学校教育研究科, 准教授 (30585203)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松村 京子 兵庫教育大学, 学校教育研究科, 教授 (40173877)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 読譜指導 / 視線分析 / アイトラッカー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,教員養成系大学における読譜指導の観点から,特に読譜時の視線の動きに着目してその特徴および問題点を明らかにするために読譜中の視線計測,分析を行ってきた。演奏時における楽譜を「読む」という基本的な行為に対して,「できた」あるいは「できなかった」という結果からばかりではなく,具体的な視線の動きを追うことから得られる特徴を体系化することを目指している。この視線の分析研究により教員を目指す学生は,個々の読譜に対する新たな知見を得るばかりでなく,将来的には自らが音楽的に習得したものを生徒・児童に活用することができるようになると考えている。 読譜中の視線の計測については,「視線の停留時間」や「視線の停留回数」に的を絞った上で,アイ・トラッカー(Eye Tracker)を用いた研究方法を本研究に導入している。アイ・トラッカーにより視線を計測することで,読譜中や演奏中の視線の動きを時間軸に沿いながらリアル・タイムで追跡することが可能になる。そして,今までは明確にすることができなかった読譜上の傾向や課題を可視化しながら研究を進めていく。 先行研究では概ねピアノ演奏時の「先読み」に関する視線研究が中心であるが,本研究では初見視唱直前の読譜中における視線,初見視唱中における視線,そして楽器を使用した初見試奏中の視線などに的を絞って分析を行っていく。これらの測定・分析に関しては,音楽を専門的に学んだ学生とそうでない学生を比較対象とすることで,より具体的な特徴や傾向が明らかにされると思われる。 平成28年度は,視唱直前の読譜に関しての視線測定実験とそこから得た結果の分析を行った。現在はこのデータを発信するために文章としてまとめている段階である。今後も実験を続けていくが,これらの結果は教員養成系大学の学生に対しての新たな読譜指導の教材開発にもつながると期待している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は,初見視唱の直前10秒間において視線がどのように動くのかを明らかにするための計測実験を行なった。教員養成系の大学生66名を対象に行い,計65名の視線データを得ることができた。対象者を音楽経験者36名と未経験者29名に分けた上で,後に歌唱することを前提として作成された課題楽譜を10秒間アイ・トラッカーのモニター上に提示し彼らの視線停留を計測した。課題楽譜は「ちょうちょう」を主題としながら12小節にアレンジした簡易なものとした。各2小節の範囲ごとに興味領域(AOI)を設け,それらに対する視線停留回数,および停留一回あたりの平均停留時間を計測した。また課題楽譜では後半7小節目より別の曲に変化させており,被験者の視線がそれをどう捉えているのかも分析した。 測定データは,前半の5秒間,後半の5秒間,そして全体の10秒間と分けて分析した。その結果,音楽経験者は未経験者に比べて均等に視線停留を行い情報収集していたこと,そしてその情報収集は視線停留時間よりもむしろ視線停留回数の頻度の多さによってなされる傾向があること,また未経験者においては,視線停留の回数よりむしろ一回あたりの視線停留時間を長く取ることで情報を得ようとする傾向があることなどがわかった。これらの分析結果やデータを整理して考察を加えながら文章にまとめはじめているところである。 また,課題楽譜中の曲の変化について音楽経験者と未経験者では大きな違いが見られ,彼らの事後アンケートによる記述を充分に裏付ける統計学的な結果も得ることができた。現在の段階では,これらの実験で得られた分析結果を発信するために実験データを考察しながら文章にまとめている段階である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の方策としては,まず今まで得られたデータと考察をまとめている文章を仕上げて発信していくことである。また,先行研究や現在進行している他の研究の情報を収集するために積極的に学会や研修会等に参加していくことを予定している。さらに,前年度に得られた結果をもとにさらなる視線測定実験を重ねていく計画を準備中である。 まず,前回の実験は「初見視唱直前の読譜」に視点を置いた視線分析を行ったが,今回は「初見視唱中の読譜」に視点を置いた視線の分析を行う。ただ単に読譜を行なっている場合と,実際に楽譜を「歌っている」場合とで視線の動きに何か違いはあるのか,また音楽経験者と未経験者との間にはどのような違いがあるのかを明らかにしていく。この実験では新たな視点として,何か演奏(歌唱)中にトラブルが発生した場合の視線の動きや,現在行われている演奏よりも前を読む「楽譜の先読み(Eye Hand Span)」がどのようになされているのかなどについても分析・検討できるはずである。 さらにその後には,実際に学校現場で使用されている教科書の楽譜を課題とした実験も予定している。特に歌唱の楽譜では楽譜と共に歌詞があり,またカラフルに彩られた挿絵なども描かれていることから,被験者の視線がどのように動くのかを検証していくことは,授業者が読譜指導を行う際の新たなる知見の提供につながると考えている。これらの実験から得られる結果から,音楽を専門としない教員養成系の一般大学生に対する読譜指導の新たな教材開発が期待される。
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Causes of Carryover |
視線測定実験を行ない結果の分析を行なったが,当初予定していたほどのデータ分析に係る人件費,および謝金を必要としなかったため(かなりの部分を自ら行った)。また,測定実験に係る準備と整理に思いのほか時間がかかったことや,所属機関の行事予定との関係で情報収集などに係る出張旅費が当該年度は当初予定より少なかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は,当初予定の視線測定実験に加えた新たな実験を行なう予定であり,前年度以上にデータ処理および分析に人件費や謝金が必要となると思われる。また,研究推進にあたっての情報収集や結果を発信するための出張を前年度より多く計画しており,そのための旅費も充分に準備する必要がある。
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