2016 Fiscal Year Research-status Report
二酸化ケイ素超薄膜に発現するリン酸カルシウム析出点の解明とその構築技術の確立
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16K13624
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
笹原 亮 神戸大学, 理学研究科, 学術研究員 (40321905)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | リン酸カルシウム / インプラント / チタン / 酸化チタン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、リン酸カルシウムの析出速度を制御するナノ構造を同定して、インプラント用Ti材を覆う二酸化チタン(TiO2)層の表面にそのナノ構造を導入する方法を探る。生体骨と速やかに接合する、あるいは生体骨との癒着が抑制されるインプラント材の開発には、リン酸カルシウムの析出速度を制御する必要がある。リン酸カルシウムの析出点となる表面のナノ構造(酸/塩基点、OH基、原子欠陥等)を特定し、それを金属Ti表面に高密度で創製する。本研究は医療工学と最先端のナノ表面科学の融合を促進し、インプラント医療に貢献する。 本年度は、リン酸カルシウムの形成に対する表面ナノ構造の影響を実証するため、原子配列を規定したTiO2(110)-(1×1)表面でリン酸カルシウムの形成を解析した。その結果、リン酸イオンが表面Ti原子に速やかに結合するものの、カルシウムイオンの吸着は浸漬後1分程度で最大値となり、時間とともに減少することを見出した。これは、酸化チタンの骨接合性が表面原子配列に敏感であることを実証した、初めての成果である。一方、TiO2(110)基板を大気中で加熱して表面を平滑化した大気加熱表面、大気加熱表面をさらにO2中で加熱したO2加熱表面を擬似体液に浸漬させて、リン酸カルシウムの成長を解析した。その結果、大気加熱表面ではリン酸カルシウムが成長するが、O2加熱表面では成長しないことを見出した。O2加熱表面により、TiO2(110)表面にはリン酸カルシウムの成長を抑制する(1×1)構造の領域が増加したと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は、TiO2表面の原子配列及び化学組成の、リン酸カルシウムの成長に対する影響を解明することを目標とした。真空中で原子配列を規定したTiO2(110)-(1×1)表面を製作して擬似体液に浸漬させ、表面構造及び組成を走査トンネル顕微鏡とX線光電子分光により解析した。その結果、リン酸イオンが(1×1)表面で配列した5配位Ti原子に結合して単分子膜を形成し、1週間の浸漬時間でリン酸カルシウムは成長しないことがわかった。また、大気中で加熱したTiO2(110)表面を擬似体液に浸漬させるとリン酸カルシウムが成長し、大気加熱表面をさらにO2中で加熱するとリン酸カルシウムの形成が抑制されることを見出した。この結果は、O2中での加熱がリン酸カルシウムの形成を抑制する(1×1)構造の領域を増加させることを示している。以上の様に、TiO2表面におけるリン酸カルシウムの形成が表面の原子配列に敏感であること、リン酸カルシウムの形成を原子配列に基づいて抑制できることを実証した。年度内の目標を概ね達成できた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度には、TiO2表面の(1×1)構造がリン酸カルシウムの形成を抑制することを見出した。また、O2中での加熱により(1×1)構造を増加させることで、リン酸カルシウムの形成を抑制できることを実証した。平成29年度は、これらの成果をインプラントのモデルであるTi材に展開して、骨接合性のボトムアップ型抑制を実証することから着手する。さらに、TiO2表面の原子配列を変更すべくSiO2超薄膜をエピタキシャル成長させてSiO2-TiO2ハイブリッド表面とし、リン酸カルシウム形成の促進を図る。 Ti板を大気中で加熱してTiO2薄膜を作製する。このTi板表面へのリン酸カルシウムの成長に対する、O2中加熱の影響を明らかにする。SiO2/TiO2(110)-(1×2)、SiO2/TiO2(100)-(3×4)ハイブリッド表面はTiO2(110)、(100)表面に高純度石英を蒸着源として作製する。ハイブリッド表面におけるリン酸カルシウムの成長速度を純TiO2表面と同様に評価する。リン酸カルシウム形成の促進を確認した後、Ti板表面にSiO2-TiO2ハイブリッド表面を作製し、原子配列に基づいたリン酸カルシウム形成の促進を実証する。
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Research Products
(7 results)